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Interview

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知事は公共事業に頼らず 北の文化を発進せよ掲載号:2009年5月

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五十嵐 敬喜 法政大学教授

北海道は公共事業が1つの産業になっているといっても過言ではない。公共事業の抜本的見直しを提唱し、多くの住民運動や自治体のまちづくりを支援している五十嵐 敬喜法政大学教授にこれからの公共事業のあり方について聞いた。

アメリカではダムの撤去が公共事業

――まさに100年に1度といわれる世界的な金融危機の中で4月末には大型の補正予算案も出されます。衆院選を控え「ばらまき」に近い歳出要求が相次ぎ、景気効果が期待できないムダな事業が増えそうです。
五十嵐  アメリカでもいま公共事業が話題になっています。私のところにもアメリカのマスコミが取材に来ました。何といっても日本は“公共事業先進国”だから(笑)。
いままで公共事業というと、ダムとか道路とか、一般的に大型土木事業のことを指すと思われてきましたが、オバマ大統領は、単なるインフラ整備だけではな く、「グリーン・ニュー・ディール」と称した地球温暖化防止や地球環境の保護を目的とした新エネルギーの開発など、“ソフト公共事業”とでもいうべき方針 を打ち出している。
――日本の2009年度予算を見る限り、そういう中長期的な経済発展を意図したものはありませんね。そもそも日本とアメリカでは公共事業の考え方が違う。
五十嵐  確かにそうです。具体的に言えば、ダムなんかも日本とアメリカはまったく違って、日本はつくることを公共事業というけれど、アメリカでは撤去することが公共事業。それくらいの差を感じます。
いまアメリカでやっている公共事業は2つに分けて考えられる。1つは経済対策。そもそも公共事業にはそういう側面がある。もう1つは、どういう国をつく るか、どういう生活をするかということと関係している。ところが日本の場合、前者が非常に強くて、後者の意識は極めて薄い。公共事業というとすぐにダムだ 道路だということになって、その維持管理、費用対便益、優先度合いなどは、ほとんどないがしろにされてきた。さらに縦割り行政で、道路は道路、河川は河川 と、どんどん突っ走る。
――北海道は将来なにが大事なのかも考えずに公共工事に依存してきました。
五十嵐  北海道と沖縄は、公共事業への依存度が日本で最も高い。そういうところでは、国から大なたを 振るわれたときに対処できるかどうかが心配です。大なたというのは、例えば北海道でいえば開発局の廃止です。道庁だって交付税をさらに減らされれば、再建 団体に転落する可能性は大いにあります。
――開発局廃止は既定路線でしょうね。大型公共事業に頼るのではなく、道民が喜び、経済的にも役に立ち、不況対策にもなるようなアイデアはありますか。
五十嵐  私の北海道の知り合いで、ホテルから出る生ゴミをある菌を使って肥料にして農家に配る。そし て、それらの農家でつくった作物を、またホテルに納めるということをやっている人がいます。彼の前職は大手ゼネコン勤務。しかし、ゼネコンの仕事には限界 があると自ら辞してそういうことを始めた。その彼が私のところに相談に来ました。その取り組みが地域にも知られ、ニーズも高まってきている。そこで学校や 老人施設など公共施設から出る生ゴミも収集して、作物で還元したい。しかし、事業を拡大するための資金が不足していると。非常にいい取り組みなのに資金が ないばかりに進展しない。もし、公共事業費から100万円でも200万円でも助成できれば、その事業は回っていく。本当に小さな事業だけれど、そこに小さ な補助をすることによって全体が回っていくんです。こういうものを道内全域で探してみる。きっと山ほど出てくるでしょう。そこにちょっとしたお金を出すこ とで、その事業も、その地域も活性化する。
――行政が地域をかなり細かく見て、発掘して、助成をすると。
五十嵐  小さな組織でやっているのが大半でしょうから、軌道に乗るまで資金が続かない。ちょっとした 運転資金はどうしても必要で、そこはもっと大胆に助成をしてもいい。竹下内閣のときの「ふるさと創生資金」のような形で、道内でふるさと創生ができるので はないか。一切条件はつけないで支庁単位でアイデア競争をやればいい。
――そういうきめ細かいことをやろうとすれば、行政が変わらないといけない。
五十嵐  そうです。要するに行政というのは予算があって年度計画をつくる。これをこなすことで精いっ ぱいになっていて、新しい発想で、新しい予算をつくっていく、あるいはプロジェクトをつくる、そういうことに慣れていない。おそらく従来の公共事業にどっ ぷりつかってしまっている開発局にはできない。予算もないし発想もない。せいぜいまちづくり交付金を少し配るくらいの話。だから道庁がイニシアチブを取っ てやらないといけないし、組織横断的に支庁が中心になってやる必要がある。
――道も財政難とはいいながら予算規模は3兆円弱あります。あとは配分の仕方だけです。
五十嵐  北海道と比べると大阪府の橋下徹知事は間違いなく元気がありますね。たとえば直轄事業負担金 の問題。大阪府は負担金を年間400億円くらい払わされている。北海道はまさに公共事業王国だから大阪府なんかよりかなり多いでしょう。こういうところに ちょっと手を入れようといっただけで事業を助成する費用なんかはあっさり出てくる。直轄負担金を払わないとは言わなくていい。いまは払えないとか、減額し てくれとか、あるいは知事会全体で合意するまで保留だとか、そんな言い方をして、その分の金を思い切って支庁に全部回す。そういうことを発想すると、かな りのことができるのではないですか。

知事特命公共事業委員会を設置せよ

――アメリカでは本当にダムの撤去をやっていますが、日本でもできますか。
五十嵐  いらないダムは全部撤去すべきだと思います。知床なんて世界遺産なのにもかかわらず、小さな 堰が多い。そういうものは公共事業として撤去作業をすべき。自然が本当に生きている海とか川とか湖とか、そういうものこそが真実の公共の財産だし、観光資 源にもなる。せっかくの世界遺産が生かされていない。
熊本県に荒瀬川ダムというのがある。撤去に72億円くらいかかるといわれている。これがやれれば日本で初めて大きなダムの撤去になります。漁民たちが撤 去運動を続けている。熊本の新しい知事は、川辺川ダムという大きなダムの建設はやめたんだけれども、この72億円がないために荒瀬川のほうはやれないでい る。
北海道の大地はすごいエネルギーを持っているじゃないですか。風景だって金になる。函館の夜景だってラベンダーの花畑だってかなりの観光客がある。もっ といえば、知床だけじゃなく北海道全体を世界遺産にする形で、自然を守り、地域の文化を発掘、育成を本気でやったら経済も相当動くと思う。大型公共事業だ けではここに住み、ここを愛するというプライドが生まれない。
――北海道は自然が財産なんだとか、風景がいいんだとか言いながら、現実にはちょっと前まで毎年1兆円の開発予算が国から来ていて、さんざん自然破壊をやってきました。山から川から海岸線から、ほとんどずたずたです。
五十嵐  私も世界遺産になる前に知床に行ったことがあります。どこが主体の事業かわかりませんが、ダムやら土木工事やら相当やっていました。
北海道は堀達也さんが知事だった時代に「時のアセスメント」をやった。あれは非常にタイムリーなヒット商品でした。当時の橋本政権にまで影響を与え、国 も公共事業評価をやるようになった。惜しかったのは事業をやめるだけではなく、替わりに何をすべきか、先に指摘をしたような発想で地域のアイデアを積み上 げていくという作業が弱かったということです。
――しかし、1度スタートした公共事業はなかなか止まりません。
五十嵐  政治的な側面からいうと、次は民主党政権が誕生するかもしれない。同党のマニフェストには、 ダムについて凍結がうたわれている。コンクリートのダムから緑のダムに変えるという戦略を立て、これまでの大型公共事業は2年間は執行しない。その間にど うするか地元で考えなさいといっている。そういう時代に入ったということを自覚してほしい。
――ただ各事業は全部縦割り。撤去するにしても、国土交通省もあれば、農林水産省もあれば、防衛省がらみもある。もちろん道の単独事業もあります。一元化できません。
五十嵐  やる方法は知事直属部隊ですよ。特命の公共事業委員会をつくって各部局から叡智を集める。

建設従事者を“第3の道”にシフト

――できますか。
五十嵐  大阪府はやっていますよ。だから知事は府庁内の各部局、あるいはそれらとつながっている各省 庁と大ゲンカしている。北海道は大地に大きなポテンシャルを秘めているのだから、リーダーシップを発揮できる人が知事になればガラッと変われると思います ね。知事たる者、みずから北の文化を創造し、育成し、発信すべきです。
――北海道の場合、建設関係に従事する人が非常に多い。公共事業がなくなったときに失業者が大勢出る可能性があります。
五十嵐  私も講演でいろんな地域に行きますが、気をつけろといわれたのは実は北海道でした。実際、公 共事業の見直しについて講演した後で、帰りに刺されるかなと思うくらい殺気だったような空気を感じたことがあります。そういうことは諫早でも経験した。工 事関係者が切羽詰まっているのは肌でも感じます。私は、需要と供給の関係で公共事業は減っていくし、そもそも大半の事業は市場で要求されていない、そうい うものはなくなっていくと、それこそ80年代からずっと言ってきた。そういう指摘は、もちろん私だけではなく、多くの専門家も言ってきた。その間、業態転 換などの努力を怠ってきて、今になって「どうしてくれる」と開き直られてもどうしようもない。
――ではどうしたら。
五十嵐  田中康夫知事のときの長野県の例がある。公共事業の削減で仕事が減った建設業者に対して「信 州きこり講座」というものをやった。森林が荒廃しているので何とかしなければいけないが、労働力が不足している。そこに建設従事者をシフトさせようという のです。テキスト代だけは徴収するけれども、10日間とか山に入れて、その費用は県が持つ。要するに勉強する費用は全部県が出す。しかし仕事は自分で創り 出しなさいということです。生活保護の社会主義でもない、すべてを切り捨てる資本主義でもない、みずからが選択できる“第3の道”というべきもの。そうい うことをオバマ政権のもと、アメリカでもやるようです。

=ききて/鈴木 正紀=