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Interview

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目指すは極東ナンバーワンの“グローカル大学”掲載号:2013年12月

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山本眞樹夫 小樽商科大学学長

 今年8月、文部科学省が公募していた「地(知)の拠点整備事業」の対象校に選ばれた小樽商科大学。それを機に同大は「ナンバーワン、グローカル大学」を宣言した。18歳人口が減る中で、どんな大学を目指すのか。山本眞樹夫学長にズバリ聞いた。

アクティブに動く人材を育成する

――8月8日、文科省の補助事業に採択されたことを報告するために記者会見を開きました。そのとき学長は「従来の小樽商科大学を大きく変えたい」とおっしゃった。
山本 大学には「教育」「研究」「社会貢献」と3つの役割があります。本学は国立大学ということで、その3つをバランスよく取り組んできました。その結果、地方の商学という特色はあるのですが、中身としては一般的。これといった〝とんがった〟ところがない。これはどこの国立大学も同じようなものだと思いますが、18歳人口が減り続ける大学淘汰の時代にそれで生き残れるのか。そこで本学は今回の採択を機に「ナンバーワン、グローカル大学」を目指すと宣言したのです。
――グローカルですか。
山本 地球規模のという意味のグローバルと、地方のローカルの造語です。
――採択されたテーマは。
山本 地域と共創する北海道経済活性化モデルと人材育成です。今年度から5年間で2億円を超す予算措置が見込まれています。自治体と連携し、観光をキーワードにした地域経済活性化のモデルケースをつくりたいと思っています。
――具体的には。
山本 後志管内での滞在型観光の推進と札幌も含めた観光を軸とした産業振興を進めるための研究やネットワークを構築します。観光地として小樽は有名です。札幌は北海道観光の中心。ニセコ・倶知安はオーストラリアや台湾の観光客で賑わっている。しかし、みんな近いにもかかわらず、バラバラで展開して観光圏になっていない。ここをうまく連携させて総合観光地域を創出することで長期滞在型にシフトさせていきたい。
いま小樽は、クルーズ船の基地になりつつあります。来年の寄港数は30回と聞いています。1隻2000人くらいの乗客がいますから、さぞかし小樽も賑わうのかと思いきや、実際に見にいくとガッカリします。豪華客船が小樽港に着くのですが、そこにはバスがズラッと並んで、みんなそれに乗って札幌へ行ってしまう。
意外と知られていませんが、後志は北海道にあるものはすべてある。富良野の景色などは羊蹄山麓にあるし、海の幸・山の幸も全部ある。一方で過疎化、高齢化など地方の課題も詰まっている。まさに北海道の縮図ともいえる地域です。だからこそこの補助事業の取り組みは重要です。
i2――そこで大学の役割は。
山本 地域を国際的な視点でとらえることのできる人材を育成することです。
大学はナショナルセンターとリージョナルセンターと大きく2つに分けられます。要するに日本全体の拠点になるのか、地域の拠点になるのか。国立大学なんだから日本の拠点だろうという声もありますが、本学は北海道という地域に貢献していく大学を全面的に打ち出しています。
もう1つ、リサーチユニバーシティかラーニングユニバーシティかという分類があります。これは研究中心の大学でいくのか、人材育成に重点を置くのかということです。
道内には国立大学が7校ありますが、総合大学の北海道大学は世界を相手に日本の学術レベルを上げていくというナショナルセンターの役割だと思います。ほかの大学は、教育大学を別にすれば、医学も含めた理工系の単科大学。こうした理工系の資源も含めて、アクティブに動いてビジネスに展開できる人材を育成するのは本学しかありません。とくにいまの北海道にはそうした人材が必要で、その育成こそが本学の役割だろうと思います。
――確かに「北海道ブランド」は、日本はもとよりアジアでも相当知れわたっていますが、それをビジネスに結びつけられる人材が不足していると。
山本 先般、ニュージーランドに本社を持つ世界的な乳業会社「フォンテラ」が、浜中町の牧場を視察したというニュースを目にしました。ニュージーランドは世界最強の酪農王国です。それがなぜ北海道なのでしょうか。やはり北海道ブランドがほしいのだと思います。とくに中国は粉ミルクの品質が悪いので、富裕層、中流層には、北海道ブランドの粉ミルクは非常に需要がある。そこにフォンテラが手を出してきた。
なぜ、それが北海道でできないのか。このままではフォンテラに北海道ブランドをお金にされてしまうだけです。自らのブランドでありながら、北海道にお金が落ちない象徴的な出来事だと思いました。

新設コースは授業の8割が英語

――やはり人の問題。
山本 大学の経済学部は、いってみれば経済を分析して評論できる人間を育てているのですが、本学では実際にアクティブに行動する人間を育成します。この考え方は10年前にビジネススクールを立ち上げたときからありました。現在、活躍している社会人を鍛え上げて、北海道経済に貢献してもらう。10年たって修了生が既存事業の革新をおこなったり、起業をするなど成果は出ています。大学の学部でもそうした人材を育てる方向でやっていく。
そのためには、教育方法が相変わらずの座学ではだめです。いま本学が取り組んでいるのは、先生と学生が双方向で対話しながら授業をつくり上げていくアクティブラーニングという方法。場合によっては社会と接点を持ちながらフィールドワーク、グループワークをしながら授業を展開しています。そこに最新のICT機器も活用します。
――大学改革のときだと。
山本 現在、経済学科、商学科、企業法学科、社会情報学科と4学科ありますが、そのあり方も含めて2016年度から新たな教育課程をつくります。そのうち1つにグローカル・マネジメント・コースを考えているのですが、それを1年前倒しでやっていきたい。
――どういう内容ですか。
山本 育成すべき人材像としては、先ほどから話が出ている北海道ブランドを直接世界に売り込める人間。まず北海道のことを十分に知らないといけません。本学は96?97%が道内の学生ですが足元のことを意外に知らない。それでは北海道を売り込めないので、地域関連科目を増やしたカリキュラムを考えています。
もう1つ、北海道ブランドを世界に売り込むためには語学が必要です。1年生のできるだけ早い時期に語学研修に出します。また大学の授業のうち、科目の8割は英語でおこないます。ある程度、専門科目が進んだところで7カ月間の長期の留学をさせる。少なくとも英語については何不自由なく仕事ができる人間を育てる。これを前倒しでやろうということです。
――このコースの人数は。
山本 20人です。15年の入学者から適用し、1年生の1学期終了時に選抜します。選抜方法ですが、TOEFLかTOEICか、いま学内で議論しています。いずれにせよ英語の能力が重要になります。
――そうした人材を道内企業が積極的に採らないといけませんね。
山本 道内の産業界も、もう少し危機感を持ってほしい。先のフォンテラのように、このままでは北海道ブランドが全部外に持っていかれるかもしれません。国や行政に任せないで、もっと自分でリスクを取る。そのためにもグローカルコースで学んだ人間を大いに採用してほしいと思います。
――授業の8割を英語でおこなうということですが。
山本 外国人教員の比率が高いのも本学の特色です。日本の大学の平均は1?2%、北大で3・5%ですが、本学は12・9%。日本人で英語の達者な先生もずいぶんいる。場合によっては海外の協定校の先生を呼ぶこともあるでしょう。
――協定校は。
山本 学生交換協定を結んでいるのは13カ国18校です。欧米は当たり前として、いま一生懸命やっているのはアジア。私としては北方圏が重要だと思っています。
i4――北方圏の大学と協定を結んでいるところは。
山本 アイスランドのビフロスト大学、ロシア・ウラジオストクの極東連邦総合大学のほか、今年6月にサハリン国立大学と学術交流協定を結んできました。ゆくゆくは学生交換協定にまでいきたい。いま検討しているのが、世界最北端に位置するフィンランドのオウル応用科学大学です。フィンランドは人口が540万人、GDPの規模も北海道とほぼ同じ。ノキアやリナックスなどの有名企業があり、国際経済競争力の順位では常に上位にあります。北海道ブランドの価値を高めていくためにも、さまざまなノウハウを交換したい。
――北海道の場合、やはり緊密な関係を図らなければならないのは極東ロシアだと思います。
山本 いまのところ安倍首相とプーチン大統領は、割とうまく接触していると思います。北海道にとって重要なのはサハリン。北海道は1次産品に素晴らしいものがありますが、エネルギーという面からすると不安もある。サハリンはエネルギーの宝庫です。石狩湾新港にガス基地が完成しました。発電所もできる。ロシアは売りたくてしょうがない。北方領土がサハリン州なので難しいところがあるかもしれませんが、サハリンの取り込みは急務です。

初代校長の渡辺龍聖を常に意識した

――11年が創立100周年でした。
山本 明治44年(1911年)が本学の前身、小樽高等商業学校が開学しました。初代校長の渡辺龍聖は「実学、語学及び品格」の育成を教育のモットーに掲げ、以来、形こそ変われ、この教育理念は今日まで脈々と受け継がれています。私自身、学長に就任して何かに迷うと、本学の歴史を綴った「緑丘50年史」を引っ張り出して渡辺龍聖がどうであったかを常に意識しました。面白いのが1期生が3年のときの修学旅行。行き先は満州、ウラジオストク、朝鮮半島と回ってくる。期間は1カ月です。
――国際情勢も交通事情も違いますが、何よりもスケールが違いますね。
山本 原点回帰といいますか、いまこそ、それくらいのスケールで考えないといけないのだと思います。
本学は100年かけて2万人の人材を輩出してきました。おかげさまで就職率もいい。「週刊ダイヤモンド」が調べた出世ランキングでは、上場企業の役員数がトップレベル。びっくりしたのは昨年の「プレジデント」です。入学偏差値に比べ、就職偏差値が最も高い大学ランキングで1位に輝きました。
商科大学もさまざまありますが、北日本で、しかも極東アジアで活躍できる人間を育てられるのは、成り立ちからいっても本学しかないと思います。目指すは極東ナンバーワンのグローカル大学です。

=ききて/鈴木正紀=