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Interview

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特定機密保護法もTPPもいらない!掲載号:2014年2月

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孫崎亨 元外務省国際情報局長

  特定秘密保護法にせよTPP交渉参加にせよ、反対の民意が多いのに、どうしてこれほどまでに軽んじられるのか。『日米同盟の正体』『アメリカに潰された政治家たち』など、多数の著書で戦後史の新しい視点を提示する孫崎享氏に、その背景にある〝宿痾〟をズバリ聞いた。

国民に十分な情報がないと判断狂う

――12月6日深夜、国の秘密情報を漏らした公務員や民間人に厳罰を科す特定秘密保護法が参議院で可決、成立しました。この通し方をどう思われましたか。
孫崎 法案の提出は10月25日、審議入りは11月7日からです。実質的な審議は20日間くらいじゃなかったでしょうか。採決まで本当に短かったという印象です。
――そもそもこの法律は本当に必要なのでしょうか。
孫崎 その必要はないと思います。私自身、1997年から99年まで国際情報局長をやっていたので、国の安全保障にかかわる情報の流れを把握しています。同盟国であるアメリカが、日本に秘密保護法のような法律がないから情報を流さないということはありません。もちろん、漏洩に気をつけてくれというのはありますが。
先般、防衛省官房長や内閣官房副長官補などを歴任した柳沢協二さんと一緒にNHKのラジオに出演したのですが、彼も防衛省時代、アメリカから情報がこないということはなかったと言っていました。ですから、この法律がないと情報がこないという政府の説明は正確ではありません。
――なぜこの時期に通す必要があったのでしょう。
孫崎 集団的自衛権と関係していると思います。10月2日、アメリカのジョン・ケリー国務長官とチャック・ヘーゲル国防長官が来日し、日米外務・防衛担当閣僚会議、いわゆる「2プラス2」が開かれました。その共同文書の中で、秘密保護体制の整備を歓迎すると書き込むとともに、集団的自衛権と一体運用についても言及しています。
――何が想定されますか。
孫崎 将来、たとえばアフガニスタンあるいはイラクで自衛隊が米軍と共同で作戦をおこなうと。治安維持などではなく攻撃にいくのですから犠牲者も予想されます。これは防衛省だけの問題ではありません。官邸も通らなければならない。情報が漏れてはいけないところが増えてきます。そういうことを想定してのものだと思います。
i2――政府は秘密保護法のようなものはどの国にもあって、日本だけないような話もしていました。
孫崎 公務員の守秘義務は法に定められていますし、自衛隊にも機密漏洩に関する厳しい決まりがあります。日本にだけないということにはなりません。アメリカには9・11以前からスパイ法というものがありますが、これが適用されたことはほとんどありません。数件あるかないかです。そういうことからすると、スパイ法のようなものをつくらなければならないという要請はあると思えません。
――アメリカ国家安全保障局(NSA)の情報収集活動などを告発したエドワード・スノーデン氏に対して、市民感情からすれば「よくやった」という評価のほうが高いと思います。
孫崎 その指摘は重要です。アメリカの連邦地方判事が、NSAが盗聴している情報というのは憲法違反だと言いました。そうすると、憲法違反を指摘して体制を正すことが重要なのか、憲法違反でも国の重要な活動を暴露しないことが重要なのか、どちらに立つかということです。やはり正しいことをやっていないと糾弾することのほうが重要なんじゃないかと思います。
2010年、尖閣諸島で中国の漁船が海上保安庁の巡視船に衝突してきました。あの映像が開示されたほうがよかったか悪かったかというと、ほとんどの人は開示されてよかったと思っています。しかし、今回の法律が通ると、あのような告発は起こらないようになっていくと思います。
――逆へ逆へですね。
孫崎 この法律の特殊なところは、その取りまとめが内閣調査室、公安警察的なものが中核になったことです。防衛に限っている法律だったとしたら、これほど問題にはならなかったと思います。しかし〝テロとの戦い〟というものが入っている。では、どういうものがテロかといえば、自民党の石破茂幹事長などは、デモもテロのようなものだと言う。あまりにも範囲が広すぎて、誰でも処罰の対象になり得るでしょう。
ノンフィクション作家で昭和史研究の第一人者である保阪正康さんと対談したことがあるのですが、保阪さんは1925年に制定された治安維持法について、基本は国家体制を転覆する、あるいは私有財産制度を否認するといった動きに対抗するためにつくったけれども、すぐに共産党が弾圧され、その後どこに向かったかというとリベラル、それから宗教、そして政府と一体ではない右派のグループ……。結局、リベラル的なものが残っているから共産主義を生むんだというロジックで、次々と排除の対象が広がっていったと指摘しています。
治安維持法の恐いところは、治安当局が「自分たちが正しいんだ」と思っていること。共産主義者のような危険な人たちがいる、それを育てるリベラル層がいる、これをつぶすことが国家のためになると。この気持ちがあるから拷問も悪いと思わない。どうしても国民の常識から乖離していきます。そのとき、物理的な力を持っているから非常に危険なことが起こる。
――そうした歴史の失敗があるにもかかわらず、どうして学ばないんでしょう。
孫崎 少なくとも第2次世界大戦の反省というものが非常に希薄になってきたと思います。とくに政治家。自民党はかなり変わってきています。かつては激しいといわれる人の中でも野中広務さんとか、あるいはハト派でいえば加藤紘一さん、宮沢喜一さんなどが党内で穏健路線を守っていた。ところが、最近の自民党は組織自体、タカ派一辺倒になったと感じます。
――いまの自民党の執行部は戦後生まればかりで世襲議員が大半です。
孫崎 ちょっと歴史を学ばなさすぎだと思いますね。
もう1つ、この法律の問題は、外交・安全保障政策を決める主体は国民だということが忘れられていることだと思います。主体が国民であれば、政府が必要な情報を出すのは当然です。よほどのことでない限り出していく。ところが政府だけが持っているのであれば、国民には十分な情報がないわけだから、判断が狂う。国民が間違った判断をすれば当然、国会に反映される。そうすると国会で間違った方向の政策が出てくる。この流れはよくありません。

世界の潮流はいかに情報開示するか

――昔からそうなんでしょうけど、国は情報を出したがらない。
孫崎 結局、日本の国を動かしているのは官僚です。官僚は、自分たちに任せれば正しい政策ができる、国民じゃないんだという感覚でしょう。独裁的なものはブレーキが効かなくなります。間違ったところへ突っ込んでいく可能性もあります。そういう意味で民主主義がより望ましい制度だとされている。その原則を認識すれば、国民に情報を開示することは民主主義のシステムとして当然です。
――今回、国際的な反響もかなり大きかった。
孫崎 そうですね。1つは日本外国特派員協会。ルーシー・バーミンガム会長は、この法律は全面撤退か大幅な修正をすべきだと異例の勧告をしました。それから国際ペンクラブ。ジョン・ラルストン・サウル会長も、民主主義の根本を侵す可能性があるというメッセージを発表しています。
また、ニューヨークタイムズの東京支局長は「世界の潮流は情報をいかに開示するかであって、今回の日本政府の姿勢はそれに逆行する流れだ」という論評を出していました。
――海外の団体が日本政府に対してメッセージを発するということは。
孫崎 あまりないと思います。外国特派員協会のメンバーに聞いたら、少なくとも過去20年くらい、こんな勧告はなかったということです。また新聞報道によれば、国際ペンクラブが日本の政治のあり方について言及したのは初めてだといわれています。
――でも日本のマスコミはこうした動きに対して鈍感だったような気がします。
孫崎 政府はこれらの勧告を受け、外国が内政に干渉することは好ましいことではないというコメントを出しています。これで日本のマスコミは怯んだのかもしれません。
――法律は通ってしまいましたが、これを阻止するにはどうしたらいいのか。
孫崎 先ほどスパイ法の話をしましたが、法律があっても運用をどうするかという問題です。何が処罰の対象になるかが漠としていて、日本国民がこれだけ激しく反対している。このことは将来の運用の部分で影響が出てくると思います。
――今後も国民の監視を強めていかないといけない。
孫崎 それが恣意的な運用をさせない力になると思います。

ISD条項で旗振るアメリカと日本

――TPP(環太平洋経済連携協定)の行方はどう見ていますか。
孫崎 アメリカの報道などを見ると、企業が投資先の国の規制によって損害を被った場合、その国の政府を訴えることができるという「ISD条項」で旗を振っているのはアメリカと日本のようです。
――日本ですか。
孫崎 言い分は、すでに日本が発展途上国に対する投資条項の中にISD条項が入っているのだからおかしくないという論理です。
NAFTA(北米自由貿易協定)にもISD条項があります。米国企業はカナダ政府に対し、アグレッシブにISD条項を使い始めています。ある薬の特許問題では1億ドルの訴訟が起こされています。
――TPPで日本がよくなるとは思えません。
孫崎 おっしゃる通り。利益になるものがありません。工業生産品のアメリカの関税は2%。自動車の関税も20年くらい変えないと言っています。まずアメリカに対するプラスは何もない。その他の発展途上国で投資が滞っているようなところはあまりないわけです。重要なポイントは、日本の輸出構造が大きく変わったことです。2010年、アメリカへの輸出は15・5%、それに対し中国、韓国、台湾、香港への輸出が38・8%になっている。もう東アジアにシフトしているのです。その中で、今後韓国がどうなるかわかりませんが、基本的にはみんなTPPに入っていない。TPPに入ることによってアジアの成長を取り込むという議論は、まやかしです。
――それでも進める。
孫崎 いま日本でかなり危険な傾向が出ているのは、反対派を押さえつけるメカニズムが進化してきたことです。一番の例は普天間問題。沖縄県民の65%が反対しています。その中で、最低でも県外といって当選した議員5人が、みんな引っくり返された。お金とか力によって変更を迫るという傾向が非常に強くなっていると思います。
――どうしてもアメリカの意向を感じます。日本が独立国とは思えません。
孫崎 集団的自衛権も日本が本当の意味でプラスになることは何もないのに進んでいく。TPPも反対の世論が多いにもかかわらず進んでいく。それはアメリカに言われて追随しているだけです。いまの日本に、特定秘密保護法もTPPもいらないと思います。

=ききて/鈴木正紀=