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Interview

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深刻化する医師不足の〝本当の理由〟掲載号:2013年2月

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島本 和明 札幌医科大学学長

 深刻な医師不足を解消するために、医大の定数がどんどん増えている。しかし医師の数は増えても、医師不足は一向に解消しない。医局の〝しばり〟がなくなってから、地域の偏在と、診療科目別の偏在が起きてきたからだ。札幌医科大学の島本和明学長に聞いた。

大学の医局へ入る人がいなくなった

――医師不足が大きな問題になっていますが。
島本 かつては道内の町立病院には、複数の内科医のほか外科医、産婦人科医、小児科医がいたところがたくさんありました。
それがいま、医師がいなくて多くの自治体が苦労しています。
2012年1月現在で、180市町村のうち、145市町村で出産ができない状態です。二次医療圏でみても、南檜山では地元で出産ができなくて、函館まで行っています。
――昔は、医師不足ということはあまり聞かれませんでした。なぜこんな状況になったのでしょうか。
島本 医師不足が明らかになってきたのは、2006年に卒後臨床研修制度の必修化が始まってからです。大学卒業後、2年間の臨床研修を受けなければならないことになった。
この研修義務化は、2年間は学生の延長という立場で、言い換えれば2年間は医師をつくらないという方針で、当初は2年間は保険医になれないというものでした。さすがにその点は変更してもらいましたが。
全国で、以前は1学年で約8000人の医学生がいました。だから2年間ということは、約2万人を研修医にするということで、一人前の医師扱いしないことになった。それで医師の絶対数が足りなくなったんです。
また大学も、いい指導医がたくさんいるところに学生は集まってくるだろうということで、地域に派遣していた医師を大学に戻したり、ある程度の規模の病院に医師を集約せざるを得ない状況になりました。これが医師引き上げということにもつながりました。
道内では、北大医学部で約120人、札幌医大で約100人、旭川医大で約60人と、毎年300人近い医師が3大学に残り、医局に入局していた。そして地方の病院に医師を派遣していました。
それが06年と07年の2年間、1人の入局者もいなくなった。この2年間ゼロというのがきわめて大きかった。
しかも2年間、研修医は自由に病院を選べる。そして2年の研修を終わったとき大学へ戻るかというと、以前のようには大学に戻らない人が多くなったということです。
札幌でしたら市内の大きな病院を選んで研修に行く、あるいは東京、大阪に行く。そうして一定の割合でそのままそこに残って、大学に戻ってこないという状況なんです。
これで北海道の地域医療も大きな打撃を受けました。
――札幌医大の場合はどのような状況になっているのですか。
島本 札幌医大では以前は、100人卒業したら95人か100人は大学の医局に入っていました。
ところがこの制度が始まってからは研修医として残るのが50人弱で、3年目で大学に戻る人はずっと70人台です。ということは20人から30人、前よりは少ない。
だから大学から人を出せなくなっているんです。

一転、医大の定数を増やしたが…

――国はなぜそのような政策をとったのですか。
島本 基本的に厚生労働省は、医師の数と医療費は相関し、医師が増えれば医療費が増えるという考え方です。それで医師の数はもう十分であるとして、医療費削減のために医師の数を減らそうとし、2年間の研修義務化をおこないました。
医師の派遣人事をおこなっている。また、医局は悪いんだから医局に入らないように、自由に病院を選ぶようにすれば、医師は地方の病院も選んで行くだろうと考えた。そうしたら誰も行かなくなったということです。
――当初からこのような結果をもたらすとは想定されなかったんですか。
島本 全国の大学の医学部長、病院長会議ではそういう懸念をずいぶん言ってきたんですが、厚労省は大丈夫だとしてきたんです。3年ぐらい前から、厚労省も方針の誤りを認め、医師不足に対応して今度は大学の定数を増やし、医学部学生定数も約9000人にまでなっています。
――これまでの医大(医学部)の定数は。
島本 歴史的にみると、1960年代の初めは全国の医大の定数が2800人でした。10万人あたり100人です。医師の数が足りないということで、その後6000人ぐらいまでに定数を増やしてきた。
それでも足りないと、田中角栄総理のときに「1県1医大構想」を打ち出して、すべての県に医大をつくった。
北海道は北大と札幌医大の2つでは足りないということで、旭川医大ができて、北海道も1つ増えたんです。
その時は79年の琉球大学医学部を最後に医大が34校新設された。以後、医科大学は1つもできていません。
ところが、今度は医療費の面から医師数が多すぎるという話になって、琉球大ができて3年後、81年の約8300人をピークに定数削減を始めたんです。 全大学で定数を一律削減した。例えば国立大学は定数を120にまで増やしていたのを全部100に減らしたんです。
それで2007年には約7700人になりました。
――医者が足りないといって医科大をつくって、増えたら今度は減らすと。国はずいぶん無駄なことをやってきたんですね。
島本 そういうことですね。それでも医師は多いということで、研修制度を必修化し、そして医師不足問題が深刻になり、今度は定数を増やし始めて2013年度で学生定数は9041まできています。

深刻な地域の偏在と診療科別の偏在

――定数が増えてきたということですが、北海道の地域医療が昔のような状態に戻るにはどれくらい時間が必要でしょうか。
島本 私は現在の努力でも、回復は容易ではないと思っています。
ひとつは学生の定数は増えても医師育成まで8年間と時間がかかります。
それと研修義務化以降、医師の地域の偏在と診療科別の偏在が顕著になってきており、その是正は困難だからです。この2つの偏在が研修必修化以降に起きてきた大きな問題なんです。
――2つの偏在を具体的に説明して下さい。
島本 まず、学生や若手医師の意識、ニーズが大きく変わってきたことです。3Kは嫌だという人が増えているんです。
夜、当直のある病院は行きたくない。9時5時で帰りたい。忙しく厳しい診療科には行きたくないということで、内科や外科、産婦人科、小児科などに入る人が極端に減ってきました。  こうした診療科別の偏在が起きてきた。
それから子どもの教育の問題もあるし、家族と別居したくないから町や村には行きたくない。地方に行けというなら教室をやめますという人も増えている。これが地域の偏在です。
有名な例では、千葉県の銚子市立総合病院の破綻があります。東京のそばの千葉でさえそんな状況で、北海道でも同様です。
だから札幌医大の場合をみても、以前の1年あたり100人の医師が入っていたのが、研修必修化で30人減り、科の偏在、地域の偏在で、地方に行ける人が大幅に減ってきています。
以前は、たとえば7?10年で博士号と専門医を取るスケジュールで、大学に7?10年いる。その間に2年間地方に行きましょうということを、みんなで申し合わせてやっていた。
1年ずつ2回ならどんな地方でも抵抗なく行ってました。1年後には帰ってくるんだから、苦痛でもなんでもなかったんですね。
――札幌医大は道立大学なんだから、卒業生は1年か2年は地方に行かなければならないと、〝しばり〟をかけることはできないのでしょうか。
島本 そういうことはよく言われます。しかし職業選択の自由の建前からは無理です。全国一斉にそういう決まりにすれば可能ですが、札幌医大だけでやっても入学が敬遠され、卒業したら札幌医大をやめて義務のないところへ行くということになります。
国の政策で検討していかなければ困難ですが、私自身はそのような思い切った国の政策も必要ではないかと思っています。

今年の入試から「北海道医療枠」

――そういう中で、札幌医大ではどのような取り組みをしているのでしょうか。
島本 まずは入試制度の改革をおこなっています。札幌医大の場合は定数が100から、いまは110人に増えました。
また08年から地域枠が開設されて、これが15人になりました。
地域枠というのは医師免許取得後に一定期間、地域医療に従事することを条件に入学し、奨学金の貸し付けを受けるものです。
そして12年には「北海道医療枠」(募集35人)を新たに設けました。入試で優先的に35人をとる。その代わり卒業したら9年間は北海道にとどまって北海道の地域医療に従事します、と誓約させるものです。
これまでは一般入試(前期)75人、推薦入試35人(一般推薦20人、特別推薦15人)の計110人だったのが、今年からは一般入試(前期)が「北海道医療枠」35人、「一般枠」40人と変わりました。推薦入試の方はこれまでと同じです。
医師派遣に関しては、地域医療支援対策委員会があって、10年前から大学の教員が1年以上常勤として北海道の要望する市町村に出ており、20人の定数でおこなっています。また、各教室からの常勤医の派遣は、大学に籍のあるもので、12年は329人も出ています。さらに大学の教員が週に1日か2日、地方に応援に行く出張という形でも年間1300件の地域医療支援をおこなってきています。
ほかにも地域医療を理解した学生を育てるために、医学部と保健医療学部の学生を毎年約40人、医師不足に悩む地域に1週間びっしり滞在させて、地域医療の実習をさせています。  いずれは全学生必修にしたいと思っています。
このように、地域医療マインドを持つ学生の教育に力を入れ、魅力的な病院、研究施設を整備して多くの研修医が集まるようにし、やがて地域医療にしっかり支援ができる、そのような大学づくりをしていきたいと思っています。
――ありがとうございました。

=ききて/干場一之=