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Interview

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安保法制合憲派の百地章「今の自衛権論議はナンセンスだ!」掲載号:2015年9月

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百地章 日本大学教授

「安全保障関連法案」は参議院に論戦の場を移したが、各種世論調査を見ると、同法案への慎重、反対が強まっている。なぜ、現憲法下で集団的自衛権行使が可能なのか。合憲派の百地章日本大学教授にズバリ聞いた。

集団的自衛権は主権国家の権利

――6月10日に安全保障法制の衆議院特別委員会が開かれました。菅義偉官房長官は安保法制を合憲とする憲法学者として、百地章さんの名前を挙げました。

百地 事前に菅官房長官から電話がありました。その際、「どうぞ名前を出してください」と伝え、長官が名前を列挙したのは3人でしたが、私は10人の憲法学者をリストアップしてあげました。しかし「安保法制に賛成だけど名前は出さないでほしい」という人も結構いましたよ。
ここまで憲法学者が世間から注目を集めたのは初めてじゃないでしょうか。これまであまり見向きもされませんでしたから(笑)。

――昨年7月、安倍内閣は「集団的自衛権」の限定的行使容認を閣議決定しました。

百地 まず、集団的自衛権とは「自国と密接な関係にある国に対して武力攻撃がなされた時は、それが直接、自国に向けられていなくても、自国の平和と安全を害するものとみなして、対抗措置をとる権利」というものです。

集団的自衛権は国際法上における国家の「正当防衛権」に相当します。刑法36条では「急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずした行為は、罰しない」としています。たとえば、一緒に歩いていた友人が、何者かに暴行を受けたら助けてあげるのが正当防衛です。国家で考えれば、友人が自国と密接な関係にある国にあたります。

――なぜ、現憲法下で集団的自衛権が行使可能なのでしょうか。

百地 集団的自衛権は、国連憲章51条に基づく、すべての国連加盟国に国際法上認められた固有の権利なのです。まず、これが大前提になります。その上で、日本国憲法がその行使を禁止していたり、わが国が国連に加盟するときに留保した事実はありません。そういうことがあれば行使できないのですが……。

――「憲法に書いていないから集団的自衛権は認められない」という見方もあります。

百地 アメリカの憲法を見てください。集団的自衛権行使を規定していますか。各国で集団的自衛権を明文化している国などありません。憲法学者たちが「憲法をいくら探しても集団的自衛権の規定が出てこない」とバカなことを言っていますが当たり前の話です。

では、逆に質問したい。「領土権」がありますが、憲法には書かれていませんよね。これは国際法によって主権の行使として認められています。憲法に集団的自衛権の規定がないからできないという人たちは、わが国は領土権も主張できないのか、という矛盾が生じます。

憲法学には国内において憲法と条約どちらが優位かという議論があります。国内においては憲法が優位とするというのが通説です。

逆に国際社会においては国際法が優先します。各国は国際法に従って行動するので、自国の憲法を持ち出してあれこれ言い出したら、国際社会はまとまりません。集団的自衛権は国際社会で行使されるものなので、国連憲章にのっとって行動すればいいということです。

地球の裏側に自衛隊は行かない

――衆院憲法審査会に自民党が参考人招致した憲法学者3人まで、集団的自衛権は「憲法違反」という見解を示しました。

百地 反対派の憲法学者たちは国際法の感覚が欠けています。彼らは違憲の明確な根拠を何も示していません。

憲法違反の理由として「従来の政府見解を大きく変更するもの」といいますが、それだけでは足りず「憲法の枠を超える」ことの説明が必要です。また、「法的安定性の確保」は大切ですが、これを欠いたからといって憲法違反とはなりません。

そもそも、個別的自衛権と集団的自衛権を2つに分けていますが、本来は不即不離、不可分一体なものなんです。国際社会において個別だ、集団だという議論はありません。分けること自体がナンセンスなんです。こんな議論をしているのは日本くらいです。

――1972年に集団的自衛権についての政府見解が出されています。

百地 従来の政府見解のポイントは3つあります。
まず、(1)憲法はわが国が自衛の措置をとることを禁じていないこと、(2)平和主義を基本原則とする憲法なので無制限には認められておらず、「国民の生命、自由、及び幸福追求の権利が根底からくつがえされるような急迫、不正の事態に対処し、国民のこれらの権利を守るためやむを得ない措置」として、初めて容認される、(3)として武力行使がおこなえるのは「わが国に対する武力攻撃が発生した場合に限られる」。だから集団的自衛権の行使は憲法上許されないとしました。

そのため、内閣法制局や歴代内閣は「わが国は集団的自衛権を『保有』しているが『行使』できない」という不可解な見解でした。これは憲法から集団的自衛権を考えるからおかしな話になるのです。先に述べたように、集団的自衛権は国際社会において行使されるものでしょう。

ところが内閣法制局は憲法から見て「できる」「できない」の議論をしてきました。スタートからボタンの掛け違いが発生していたわけです。

――昨年7月の新政府見解(新3要件)では、どのように変わったのですか。

百地 (1)と(2)は従来と同じ見解です。(3)として、「自国」に加えて「わが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由、及び幸福追求の権利が根底からくつがえされる明白な危険がある場合」と拡大しました。
しかし、今回の政府見解では集団的自衛権行使を可能にしましたが、極めて限定的です。ですから、日本がアメリカと一緒に地球の裏側にまで行って戦うなんて、あり得ないことです。

砂川判決で違憲派はデタラメな主張

――憲法学者や野党の違憲派は、59年の砂川事件の最高裁判決は、集団的自衛権には触れていないと言っています。

百地 憲法学者の解釈はあくまで「私的解釈」であり、政府や国会を法的に拘束しません。拘束するのは政府見解、国会の決議、裁判所の判例です。中でも最高裁の判例が一番重いですから、国会、内閣も拘束されます。

当時はアメリカとの旧安保条約の時代であり、これに基づいて米軍が日本に駐留していました。その駐留軍が憲法違反かどうかが問われ、最高裁が「有権解釈」として判決を出したのです。

旧安保条約には、すべての国が個別、集団的自衛権を持っているとした上で、「これらの権利を行使して」アメリカの駐留を求めると書かれています。この条約と米駐留軍の合憲性が問題とされたわけですから、集団的自衛権は関係ないという主張はナンセンスです。

判決では「憲法9条は、わが国が主権国として持つ固有の自衛権を何ら否定していない」とした上で、「わが国が、自国の平和と安全を維持しその存立を全うするために必要な措置をとりうることは、国家固有の機能の行使として当然のことといわなければならない」としました。

この「固有の自衛権」には当然、集団的自衛権も入っていると考えなければなりません。固有の自衛権とは個別、集団的を一体としたものです。もっと言えば、最高裁は砂川判決で個別的自衛権という言葉も使っていません。では、ここでいう「自衛権」とは何を指しているのでしょうか。

安保法制に反対の人々は、判決の内容をきちんと考えていただきたい。中身の精査もせずに、デタラメに議論しているだけです。

日本の防衛にアメリカを巻き込む

――安保法制審議入り後、マスコミの世論調査で安倍内閣の支持率は低下。安保法制への慎重、反対を求める声が強まっています。原因をどう考えていますか。

百地 前任の法制局長官だった小松一郎さん(故人)は外務省時代、条約課長、条約局長を務めた人でした。いわば、国際法のプロです。いまの横畑裕介法制局長官は国際法が専門ではありません。仮に小松さんがご存命で、安倍政権のそばにいたら政府の説明方法も変わり、国民にわかりやすく意義が伝わったと思います。

審議の場が衆議院から参議院に移りましたが、政府は集団的自衛権は国際法上の権利だということを、繰り返し説明すべきです。どこの国も持っている権利ですが、わが国はこれまで根拠もなく否定してきた。このロジックならば、安保法案の全体像が見えてきます。その上で、日本は憲法9条があるので、集団的自衛権には一定の限界があるだけだと説明するべきです。

それと、集団的自衛権そのものの説明と同時に「なぜいま必要なのか」を、包み隠さず話すべきです。衆議院では、この点が十分ではなかったように感じます。ただ単に「国際社会が急激に変化している」と曖昧な言葉を並べても伝わりませんよね。

アメリカはオバマ政権誕生以降、内政志向になっています。とくに13年9月、オバマ大統領は「アメリカはもはや世界の警察官ではない」と発言しました。あの発言がその後の国際情勢に大きな影響を与えました。ロシアがウクライナを武力で制圧したのもその半年後ですし、中国が南シナ海に展開し始めたのもオバマ発言以降です。そのような脅威が迫ってきている中、いざというときにアメリカが駆けつけてくれるとは限りません。

安保法制の整備は「アメリカの戦争に巻き込まれる」とか「戦争法案」ではなく、アメリカを日本の防衛体制に巻き込むためなのです。

日本の防衛体制は自衛隊だけでは難しい。安保条約と核の傘により、抑止力を高めることができます。集団的自衛権の限定的行使を認めれば、アメリカに対してもアピールできます。「もう一度絆を強めよう」と説明すれば、国民の心にも響くはずです。

国民は中国や北朝鮮の脅威を感じているはずです。安倍総理が答弁で率直に語れば、国民も納得するのではないでしょうか。
衆議院では「外交上の配慮」などを理由に言及しませんでしたが、参議院で安倍総理は中国の脅威を具体的に指摘し始めました。機雷掃海もホルムズ海峡と言っていましたが、南シナ海もあり得ると発言し、一歩踏み込みました。この流れで審議を進めていけば、世論も必ず変わってくると思います。

=ききて/前田圭祐=