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Interview

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地域通貨を視野に「1ドル50円時代」を生き抜け掲載号:2012年8月

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浜矩子 同志社大学大学院ビジネス研究科教授

 今日のユーロ危機を早々に予見していた。その卓越した分析力で世間の耳目を集めるエコノミストで同志社大学教授の浜矩子氏。ヒト・モノ・カネが国境を越えるグローバル時代に、北海道の自立性を実現する視点をズバリ聞く。

公部門のだらしなさを補う民間経済

――ユーロ危機は、まだまだ予断を許しません。
浜 いまの為替市場も資本市場も金利も、すべてがユーロ圏の動向に振り回されているところがあります。グローバルなレベルで非常に大きな不安定要因になっていて、とくに円という通貨が、いまや〝いの一番〟の対比通貨になっています。何かあれば、みんな円に逃げてくる。いまや〝有事のドル買い〟は成り立たない状況です。ユーロがこれだけ値を下げ ているときに、同じくドルも下がる。かつてなら間違いなくドルが大幅に買われるところですが、日本が大国化していく中で、明らかな役割交代がみられます。 ヨーロッパで起こったことが、即時的に日本経済を揺るがし、円の価値を大きく変え、われわれのお茶の間にもその影響があっという間に飛び込んでくる。そう いう時代です。
――これだけ日本の財政が悪いといわれているにもかかわらず、どうして円は高くなるんでしょう。
浜 政府部門のパフォーマンスは非常に悪いにもかかわらず、日本経済全体としてみれば世界最大の貯蓄大国です。民間経済のパフォーマンスがそれだけ優れていることの証左です。日本の内側に、ものすごくふしだらなキリギリス部門がある。そこだけを見ればひどいけれども、アリさんの頑張りがすごい。だから全体としてはいい姿になっている。このアリさんたちは素晴らしいという評価になるからお金が集まってくる。これが逆で、財政は健全だけども民間経済はものすごく落ち込んでいるということであれば、これほど円高にはならないでしょう。民間経済が公的部門のだらしなさを補って余りある力。ある意味では当然の成り行きかもしれません。
i2――ギリシャは民間もダメだと。
浜 両方ですよね(苦笑)。人口1100万〝総キリギリス〟という感じですから。こう言ってしまうと、ギリシャ人はどうしようもない人たちだということになってしまいますが、必ずしもそうではあり ません。もちろん、キリギリス的な面は多分にあるでしょうけど、なまじユーロという通貨があって、その一員になってしまったがゆえに、彼らの内在していた キリギリス性が全面的に顕在化してしまった。ユーロに入っていなければ〝もうちょっとアリっぽく振る舞わなければダメだよな〟というような自己抑制が働い たと思います。
――いまの政府は増税まっしぐらです。この状況下で増税すると日本の民間経済は悪くなりませんか。
浜 消費税制度の設計の仕方にもよりますが、税率が5%から8%になるという程度のことが、日本の民間経済に壊滅的なダメージを与えるとは思えません。
いずれにしても、いまの日本経済の最大の問題は、ことのほか政治・政策・行政、企業経営もそうだと思いますが、国民の自己認識と実態の日本経済との間に非常に大きな乖離があることだと思います。だから元気がなくなったり、過去に戻りたいという気持ちになったりする。
いまや日本は、輸出産業によって牽引される国ではないですし、追いつけ追い越せ経済でもない。非常に豊かだけれども、成長の勢いは成熟度に伴って低下しているという姿です。そういう環境の中で成果の上がる経営をするためにはどうすべきかという発想がなくて、あのときに戻りたい、戻れないから閉塞感だという気分になる。そこに〝ないものねだり〟的な大きな問題があると思います。目の前にそびえ立っている宝の山が見えずに、昔の夢を追っているというミスマッチ。それが、いまのような状況を生み出している気がしてならないですね。
――宝の山というのは。
浜 実際に国民貯蓄という富の規模がものすごく大きいこと。そのことと表裏一体の経済社会においても、制度や仕組み、インフラの整備など、大変充実している。そして、ヒト資本。これだけの成熟社会を効率的に回していく力を持ち、キリギリスにならない人々の存在。こんな宝があるのに、なぜダメな気になるのか。私は、一種の贅沢病であると同時に、宝の山を上手に分かち合えていないからだと思います。

EUの現状が1国多通貨体制を予告

――既存の租税制度で増税しても、この国が抱える問題は何も解決しないように思います。
浜 そこが一番重要なところです。既存の租税体系が、いまの日本の状況にマッチしているのか。消費税の問題も、現状の日本経済の体質や構造の中で、それほど国民に迷惑をかけることなく税収を最大化する租税体系に変えるというのが本来のテーマのはずです。それが税率を何%に上げるかというような、ものすごく矮小化した問題にすり替わり、本質的な成果につながる議論になっていない。
明らかに日本の租税体系は直接税に偏重しすぎ。それも個人所得税に。いまのような状況下では税収が下がるのは当たり前です。日本の中には、日本国籍を持っている人しかいなくて、その大多数はサラリーマンであるということを前提にした仕組みです。サラリーマンから源泉徴収方式で所得税を取る。一番確実に税収があがる方式です。
確かに、サラリーマンが大多数を占めている社会だったときは、ものすごく合理的な選択でした。しかし、日本国籍を持つ人は減る一方。逆に日本国籍を持たない人たちの経済活動がどんどん大きくなっています。正社員の数も減り、非正規雇用が多くなっている。既存の徴税方法では立ちいかなくなっているのは明らかです。
このグローバル時代、中央と地方の関係も大きく転換しようかという日本に、どんな税制がマッチするのか。それが大きなテーマなはずです。だから租税体系の大変革を進めるビッグプロジェクトの一環として消費税を上げるというのならわかります。そういう形であれば国民に説明するのも説得力がある。それを「これは福祉目的税」と言ったり、「成長率いかんでは見送るかもしれない」などと軟弱な言い方をしているから埒があかないわけです。
――こんな国の情勢ですから、最近とみに、北海道は独立すべきという話がよく出ます。
浜 その選択は非常に合理的だと思います。そのためには持てる資源をもっと有効に活性化するための体制が必要です。沖縄も九州も四国も、独立しても全然おかしくない。日本を独立小国連合に編成してもいい。
――浜さんは著書などで地域通貨に言及されている。
浜 独立するなら独自通貨が必要です。独自通貨なき独立は、基本的にはあり得ません。私は、いまのような日本の財政状況の延長線上には、1国多通貨体制になるという回答が結構、出てきそうな気がしています。北海道の中央依存体質も、それができない状況になってしまえば自力でいくしかない。そうすると独自の通貨を持たないとどうにもなりません。グローバル時代というのは、実は1国1通貨体制がだんだんと揺らいでいき、1国多通貨体制が当たり前になるのではないのかなという気がしています。ユーロ圏の状況を見ていると、あの姿が1国多通貨体制到来の前触れではないかという感じがします。
――独自通貨をつくるためにはどう進めていけば。
浜 北海道中央銀行をつくり、そこが北海道通貨の発行主体になるというやり方がありますし、政府紙幣的な感覚で北海道政府が発行主体になるという方法もあります。実際いろんなやり方があって、かつて独立とか法定通貨までいかないまでも、ものすごく構造不況化した地域で、自治体と地元産業の合意のもと地域通貨をつくって、それで給料も払う、税金もそれでOKとやり出すと、あっという間に雇用が創造され、地元の商工業が息を吹き返したという例があります。地域でそれを使うという合意ができ、お互いにプレッシャーをかけ合っていくと、たとえば円という通貨が入ってこなくても、それなりにやっていけます。
――北海道は世界で21番目に大きな島です。
浜 その意味では地域通貨がうまく定着するには、逆に大きすぎるのかもしれない。スイスがいま一番発達したコミュニティー通貨を使っています。ほとんどスイスフランと同時流通をしていて、誰もがそれを普通だと思っています。ですから、定着自体は実証されている。北海道はスイスより大きい面積ですが、本気でやれば何とかなるのではないかと思います。
――浜さんは1ドル50円時代を見据えていますね。
浜 確実にそうなると思っています。

地域の多様な独自性を発揮する時代

――それはいつ頃だと。
浜 いくときはすぐいってしまうと思います。10年という単位の話ではまったくない。いま1ドル78?79円。もう一押し何かあれば、あっという間に70円割れが現実になるでしょう。本当に極端な話、こういう大きな通貨の大変動が起きるときというのは、それまでに紆余曲折はあるけれども、一夜にして起きることがあります。ニクソンショックでドルを中心にした固定為替相場制度が壊れたのも、1971年8月15日をもって一気に変わったわけです。
――その高い円が地域を活性化させることになりませんか。
浜 なると思います。それは使いようで、高い円とどうつき合うかが重要。日本の地域が、政府とのタイアップとか、その支援を得るということなく、グローバルな市場に出ていきやすくなります。また、円の購買力が上がっているということですから、世界からヒト・モノ・カネを引き込もうとしたとき、非常に割安にできるということです。円で給料を払うといえば、世界の頭脳を集めることもできるかもしれません。
――海外でものを買うのではなくて、逆に国内に人を引き込むと。
浜 そういうことです。
――そうなると地域通貨と円がリンクしていないともったいない。
浜 高い円と、通用性の高い地域通貨。その両方があれば鬼に金棒です。
――グローバル化は地域を活性化させていくと。
浜 私はそう思います。20世紀までの人類史が国家間における関係形成の歴史だったとすれば、21世紀は国家の基礎的・本質的構成単位である地域社会・地域共同体がその多様な独自性を発揮する時代なのだと思います。ヒト・モノ・カネが国境を越えるということは、自ずと国家の統治能力やサービス提供力が低下するということです。だからこそ各国の財政が悪化し、中央銀行の金融政策がここまで低下しているのだといえます。それは国家が新たな時代についていけていないということですから、そうなってくると国家の中に内包されていた地域の独自性が全面に出てくるのは論理的帰結です。

=ききて/鈴木正紀=