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Interview

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地域の特徴に合わせた資源づくりで日本の漁業を支える掲載号:2013年9月

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川崎一好 北海道漁業協同組合連合会 代表理事会長

 6月20日に開かれた北海道漁業協同組合連合会の総会で、新会長に選任された川崎一好氏。厚岸漁業協同組合代表理事組合長、北海道栽培漁業振興公社会長理事なども務める。燃油高騰、TPP、ロシアとの関係など、北海道漁業を取り巻くさまざまな課題についてズバリ聞いた。

1年で震災前の生産量に戻ったカキ

――昨年はイカ、サンマの水揚げが大きく減少しましたが、今年はどうですか。
川崎 いまのところ安定していると思いますが、心配なのは通り魚の「春鮭鱒」です。
――春鮭鱒というのは。
川崎 サケといえば秋と思われがちですが、初夏が旬のサケもあります。季節外れに獲れることから「時不知」とも呼ばれる「時鮭」と、サケの中でも最も赤く味わいの深い「紅鮭」を合わせて春鮭鱒といいます。それが今年は日本の200内で大不漁でした。
サンマも近年、沿岸につかなくなっています。私の出身の厚岸は、どうしても春鮭鱒とサンマが主になります。われわれ漁業者だけではなく、仲買い、加工業者も動いていますから、この2魚種が落ちてくると、厚岸町自体の経営が大変になります。
一方で、カキやアサリなどの養殖沿岸漁業をやっている人たちは非常に安定しています。東日本大震災で大きな被害が出ましたが、1年で施設の整備が終わりました。カキは1年で震災前の水揚げ数量に戻りました。アサリについては5年くらいかかるだろうと思っています。現状では震災前の水準に戻っていませんが、あれだけの養殖用の床をつくってもらいましたから、今後は順調に推移するのではないかと思っています。
――厚岸特産物の「カキえもん」の評判はいい。
川崎 大成功だったと思っています。厚岸の中心は昔からカキ。数量的にどうとか、金額的にどうとかいうよりも、どこへ行っても厚岸から来たと言うと「厚岸カキだね」と返ってきます。やはり厚岸は、カキを中心に据えた経営基盤をつくっていかなければならないと思っています。
――川崎さんは厚岸漁業協同組合の組合長でもありますからね。
川崎 1996年3月から組合長を務めています。
i2――今年4月までは株式会社「川崎漁業」の社長も務められていた。
川崎 道漁連会長に内定したので社長は降りました。
会社組織にしたのは1987年です。
――川崎漁業は何を主に獲っているのですか。
川崎 昔からサケ・マス、それにサンマです。
――昨年はサケも不漁でしたね。
川崎 北海道全体でいうと、ピークで20万
――原因は。
川崎 特定できません。ただ、大きく自然が変わってきたという感覚はあります。近年はブリが獲れています。回遊魚ですから、北海道でも昔から獲れていたのですが、やはりメーンは日本海南部の島根県や鳥取県あたりです。そういう意味では、海も温暖化してきているという懸念は持っています。
――そんな自然環境も含め、厳しい情勢のときに会長に選任されました。
川崎 私はあまりそう思っていません。父親の背中を見ながら、子どものときから漁師をやってきました。確かに毎年、厳しい、厳しいと終わっていく。昨年だめでも今年どうなるかわからない。今年はよくても来年どうなるかわからない。毎年、その繰り返しのような気がします。
そういう意味では、燃油高騰とかTPP問題とか、毎年新しい問題が出てきます。でも、それは1次産業ばかりでなく、どの産業にもいえることです。苦難を乗り越えて現在がある。どんな壁にぶつかっても、浜のみなさんと知恵を出し合っていけば、乗り越えられると思っています。
また、先代の櫻庭武弘会長がきちんと土台を築いてくれているので、私はその路線を発展させていくのが役割だと思っています。
――櫻庭さんが築いた土台とは。
川崎 サケ、ホタテ、コンブ、これら北海道の3大魚種について、グローバル化に向けて、しっかりとした販売方法の確立に、非常に大きな貢献があったと思います。

5年前の燃油高騰より1段階上

――喫緊の課題は燃油高騰になりますか。
川崎 私が仕事を始めたころ、重油は1
――燃油に関しては国に補助を求めるのですか。
川崎 さらなる補助体制の構築を全漁連と一緒になって国に訴えていかなければならないと思っていますが、現状は5年前の燃油高騰のときよりも1段階上がっている。今回、国は円安誘導型の経済を展開しています。国は意図的にそうした政策を打っているわけですから、単に補助ということではなく、燃油は高くなったけれども、こういう方向に舵を切れば好転していくという戦略的な政策を示すべきだと思います。
――TPPの影響は。
川崎 交渉参加まではいいと思います。ただ、交渉の経緯の中で、漁業にどんな影響があるのか、なにがプラスでなにがマイナスなのかという説明が絶対に必要です。いまの段階ではそれができないし、どこまで交渉の中で詰めていけるのかわからない。われわれ1次産業は非常に不安です。とくに農業においては、関税率が非常に高くなっていますから、大きな不安感を持つのは当たり前だと思います。そもそも国がそういう経営体質の農業をつくってきたわけですから。
――水産物の関税率は農産物に比較して低い。
川崎 そういう意味では、たとえ関税がゼロになっても、われわれはやり抜いていく覚悟はできています。まさに櫻庭さんの土台づくりの神髄はここです。グローバル化に向けて、北海道の産品を外国に売る。高次加工の技術を高め、世界で戦っていける漁業をつくっていきたいと思っています。

北方4島との経済交流はまず漁業で

――北海道は栽培漁業が非常に進んでいます。
川崎 地域的に恵まれていると思います。いわゆる〝無索餌型〟で、エサをやらないで育てる漁業がある程度確立されています。囲い込みをしてエサを与えて育てる養殖とは違うのです。たとえば秋サケは人工授 精で稚魚をつくり、放流して4~5年後に帰ってくる。ホタテも稚貝をつくって直まきしたり、あるいは耳釣りをして育てています。われわれがエサを与えるわ けではありません。ここに、いち早く転換していったオホーツクは、経営が一番安定しています。
では、どこでもホタテが獲れるのかといえばそうではありません。地理的な条件があって、太平洋側はほとんど獲れません。秋サケも回帰率がいいのは根室海峡とオホーツク海側。日本海側、太平洋側は非常に落ち込んでいます。そういう地理的条件があるので、地域の特徴に合わせた資源づくりが大事です。しかもある程度、数量が獲れないと多くの人がたずさわれない。沿岸のみなさんが、それで生活できるような形にしていかなければなりません。日本海側も、かなり栽培漁業の方向にきています。
――日本海側はニシンが回帰するようになりました。
川崎 よくなってきています。北海道栽培漁業振興公社がニシンの稚魚の放流をずっとやってきました。厚岸にもあります。これは故・中川一郎先生が農林水産大臣のときに海洋牧場構想というのがあって、その構想のもと設立された機関です。長い間やってきたのですが、あまり芽が出なかった。最近になって日本海側で群来が見られるようになってきました。
――栽培漁業と言いながら、ほとんど天然です。
川崎 そういっていいと思います。北海道にはオホーツク海、日本海、太平洋、それに根室海峡、津軽海峡があります。まずはそれぞれの地域に合った安定した栽培漁業を持つ。その上で流動性のある回遊魚を資源管理しながら水揚げする。それが漁業経営の一番安定する方法だと思います。
――現在、漁業におけるロシアとの関係は。
川崎 北方4島と隣接している北海道の漁業は、コンブから始まって、ホッケやスケトウダラ、サケ・マスやサンマなど、すべての魚種がロシアとの交渉の中で漁獲しています。領土問題は政治的に解決できていませんが、だからこそもっと民間の中でロシアとの交流を深める必要があると思います。その先駆けは漁業ではないでしょうか。
いまロシアのウラジミール・プーチン大統領と安倍晋三総理との関係がよくなってきているようなので、領土問題とは切り離し、漁業での交流をもっとオープンに議論してもらいたいと思っています。私たちは、いま北方4島でどんな漁業がおこなわれているのか知る由もありません。彼らがどれくらいの船を持ち、どんな獲り方をしているのか。ただ関係者の話を聞くと、加工場などにしても、日本人にやってもらったほうがいいというような話もあるようです。
ロシアの漁船も日本の海域に入ってこられる。われわれも北方4島海域で魚を獲れる。そうすると北海道の機船漁業はもっと幅の広がったものになり、北方4島との経済交流も大きく変わる。安倍総理には期待しています。
――日本の漁業を支えているのは北海道です。
川崎 水産物の総生産量の4分の1は北海道です。われわれの一番の使命は、消費者のみなさんに喜んでもらえる北海道らしい魚介類を提供していくことだと確信しています。それを忘れず、しっかりした漁場の環境整備、資源管理をやっていきたいと考えています。

=ききて/鈴木正紀=