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Interview

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もっとドキドキする“ワクワク”百貨店へ掲載号:2013年7月

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香川暁子 大丸札幌店店長

 JR札幌駅直結という抜群の立地を生かし、2003年3月の開業以来、右肩上がりの成長を続けてきた大丸札幌店。その開店準備から携わり、昨年5月に6代目店長に就任した香川曉子店長(55)に、成功の秘けつ、今後の展望を聞いた。

開業前の認知度はわずか7%だった

――札幌店の開店準備に携わり、2003年の開業後は婦人雑貨子供服販売部長を務めました。08年に大阪・梅田店営業推進部長となり、12年5月に札幌店の店長に就任しました。この1年を振り返ってどんな感想をお持ちですか。
香川 今年3月の開業10周年の準備などで、本当にあっという間の1年でした。
――札幌での勤務は4年ぶり2度目ですね。
香川 私は四国の愛媛県出身で、高校からはずっと東京でしたが、やっぱり札幌は暮らしやすいまちだと思います。08年から4年ほど大阪の梅田店で勤務していましたから、関西のコテコテな地域から札幌にくると、空気はおいしいし、人もやさしい(笑)。
――以前の札幌に比べ、違うと感じる点は。
香川 一番違うのは、私が関西にいる間に札幌駅前通の地下歩行空間ができたことです。札幌の中心部の人の流れが変わり、駅前ゾーンに来ている人の数が前よりも増えたという感覚があります。それに、店内で大通ゾーンにあるお店のショッピングバッグを持ったお客さまを多く見かけるようにもなりました。お客さまが買い回りをしているということだと思います。歩いても10分もかからないくらいの時間で着くのですから便利だし、健康にもいいと思います。
――札幌店の12年1?12月の売上高は571億円(前年同期比2・1%増)でした。他店が消費低迷に苦しむ中〝一人勝ち〟ともいえる状況が続いていますが、どう感じていますか。
香川 短期間でよくここまで、北海道のみなさまにかわいがっていただけるようになったなというのが率直な感想です。
札幌店のオープン前に、札幌市内で大丸の認知度を調査したら7%で、大丸という百貨店をご存じない方がほとんどでした。そういう意味では、札幌のお客さまに受け入れていただいたことが、10年間の成長を支えるベースになったと思います。

好調を支える立地と商業集積

――成功の要因は。
香川 この札幌店は、私どもが取り組んできた経営構造改革の中の、第1次営業改革の集大成ということで全社の知恵を結集させてつくりました。大きな特長は、非常に立地に恵まれているという点。JRや地下鉄の駅と直結していますから、天候の悪い日でも傘をささずに来ることができる。
それから、JRの駅とは段差がないんです。階段は人にストレスを与えるもので、段差がなく入ってこられるというのも非常に大きい。当然、ベビーカー、車いすのお客さまにも快適にお使いいただけます。
また、真四角の店で、真ん中にダブルでエスカレーターがある。このつくりのおかげで、お客さまが店内を回るときに「死に場所」ができません。なおかつ、ステラプレイスと多層階でつながっていますから、サツエキ全体を買い回りしていただける。お客さまは「大丸に行こう」ではなく「サツエキに行こう」という感覚を持たれているのではないかと思います。
シネコン、レストラン、ホテル、多くの専門店街、クリニックに加え、周囲には書店や家電量販店もあります。こうした日本有数の商業集積ともいえる環境に助けられていると思います。それでいて、非常に構造がわかりやすく、歩きやすい。私は大阪の梅田店に4年いましたが、ここの地下街は何回行っても迷子になります。札幌駅の商業施設「JRタワー」の10周年のテーマは「もっと、まちになる」でしたが、札幌駅ゾーンの中でのいい循環ができていると思います。

最初にチャレンジすればやり直せる

――開店前、ここまで順調にいくと想像しましたか。
香川 たった10年で、ここまでくるとは思っていませんでした。身の丈に合った環境の中でコツコツと努力してきたことが、ここまで止まることなく成長につながっているということだと思います。
――ここでの成功は、社内で「札幌モデル」と呼ばれているそうですね。
香川 一言でいえば、ローコストモデルです。札幌店では、運営経費を低く抑え、売り上げはそれほど多くなくても利益は出せる体制をつくりました。
――手厚い接客が求められる売り場と、その必要がない売り場を徹底分析し、従業員数をかなり抑えたそうですね。「業界の常識とかけ離れている」と同業者の間でも話題になりました。
香川 通常、百貨店では物流の仕組みや、商品を店頭に出すまでの納品所を自前で持ったりするんですが、この店は全部アウトソーシングをおこなっています。それで回す仕組みをつくったということです。レジカウンターの業務もいまは全社的にアウトソーシングになっていますが、最初、札幌でうまくいったものを東京や大阪などに戻していきました。  いまは「札幌モデル」をベースにして、その後の梅田や東京での成功事例を取り入れながら、次のステップである「新百貨店モデル」を早く確立するというのが課題です。
――柚木和代前店長に続き、2代続けて女性がトップになりました。
香川 女性が続けて店長に就くのは当社でも初めてのことです。百貨店はお客さまの7?8割が女性ですから、お客さまの目線に近いところで売り場を見ることができるという、いい面はあると思います。
例えば、キュウリ1本の値段が気になる、とか。男性だと「スーパーでは3本98円」とかいうのはなかなかわからないこともある。うちに置いてあるキュウリがよそのキュウリより高くてもいいんです。ただ、高い理由が明確でないといけない。一消費者としての感覚を忘れてはいけないと自分に言い聞かせています。
――ご自身はどんな性格だと思いますか。
香川 思ったことをすぐパッと口に出す、クヨクヨしない。〝男らしい性格〟とよく言われます。「お客さまのワクワク、ドキドキを一番大事にしたい」という気持ちがあって、そのためにスピード感、チャレンジ精神を 持つことを心がけています。「最初にチャレンジしたら、失敗してもやり直す時間がある」というのが持論です。隣を見ながら何かをやれば、例えうまくいった としても、マーケットはもっと先に行っていると思います。

北海道の大地から逆方向の情報発信

――札幌店の開店当時の思い出に残るエピソードは。
香川 10年前の03年3月のプレオープンの日、当時は婦人雑貨を担当していましたが、売り場にパラソル(日傘)をそろえて失敗をしました。当時、東京や大阪の百貨店業界の常識として「3月になったらパラソルを提案する」というのがあったんです。
でも、札幌では雪が降っていて、パラソルを手に取るお客さまはいらっしゃらない。初日に「しまった」と思い、慌てて品ぞろえの見直しをしました。開店直後のバタバタの中で、です。もっと地域のお客さまのニーズに向き合わなければならないと反省をしました。
――10周年という節目を迎え、今後、どんな店づくりを進めますか。
香川 札幌で10年間ご愛顧いただき、今年、札幌店では「3000通りのありがとう」というテーマを掲げました。札幌店で働いている人の数が大体3000人。これは店頭で働いている人のほかに、掃除を担当している人、駐車場で誘導の仕事をしている人、全部合わせた数です。一人ひとりのやり方で、お客さまに10年間の感謝の気持ちをお伝えしよう、というのが大きなテーマです。
それから、先ほど「お客さまのワクワク、ドキドキを大事にしたい」という話をしましたが、これまで東京や大阪で話題になっているものを、道内のどこよりも早くお客さまに紹介するという形で「今だけ、ココだけ、大丸だけ」の「情報発信」に取り組んできました。これをいま、10年を機に〝逆の流れ〟を起こしたいと考えています。
本州から北海道にまた戻ってきて感じるのは、北海道には素晴らしいモノ、コト、ヒトがたくさんある。それを東京や大阪、もっと言えば、アジアに向かって発信したいと思っています。

テーマは「今から、ココから、大丸から」

――具体的なアイデアは。
香川 札幌の円山地区は、道内ではおしゃれな住宅地として知られていますが、日本全国でいうとまだあまり知られていません。でも、探してみると、ものすごく素敵なセレクトショップや雑貨屋さんがたくさんあります。そういうお店を集めてフェアをやるんです。
円山にそういう店があることを知っていただく機会にもなるし、大丸に普段来ないような各ショップの常連のお客さまにもご来店していただける。双方にメリットがあるわけです。札幌店には1日6?7万人が来店しますが、中には観光客も結構いますから、全国にも情報発信ができます。
また、うちのバイヤーもこの10年間で、北海道全土の生産者のみなさんとのネットワークができました。例えば、ある漁師さんがとった活き締めのサケの筋子で、奥さんがイクラをつくり、隣町の農家さんのコメを使って弁当にして売る、というようなことが可能になるんです。これは実際によく売れて、すぐに関西の店舗のバイヤーから「うちにもぜひ1週間出してほしい」と連絡が来ました。北海道はそういう素材がいっぱいあります。  うちは兄弟店が十数店ありますが、こうした地域に根ざした情報発信メディアのような役割をできるのは大丸松坂屋の中でも札幌店の強みです。「今から、ココから、大丸から」というフレーズを使ったこうした取り組みは、これから札幌店が成長していく源泉の1つになるのではないかと考えています。
それから、今後の大きなテーマになるのが「百貨店のオープン化」です。少子化で人口が減る中、間口を広げて、いままで来てくださっていなかったお客さまにも、来ていただけるようにしなければいけません。
本州の他の店舗では、ポケモンセンター(人気ゲームのグッズ専門店)、東急ハンズ、ユニクロなど、これまでなかったジャンルのお店に入っていただいてます。こうすることで「百貨店は私のお店じゃないわ」と思っていたお客さまが来てくださるようになりました。お客さまの間口が広がれば、商品も広がり、価格も取引先も広がる。当然、サービスの間口も広がらないといけません。これからも、お客さまに楽しさを感じていただける百貨店を目指していきます。  ――話は変わりますが、ご趣味は何ですか。  香川 旅行をしたり、本を読んだりですね。この1年はゆっくり旅に出る余裕はありませんでしたが、利尻島・礼文島は夏の間のいい時期にぜひ一度行ってみたいと思っています。

=ききて/安藤由起=