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Interview

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「戸別所得補償制度はまだ道半ば」
飛田稔章が民主党に注文
掲載号:2010年5月号

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飛田稔章 JA北海道中央会会長

民主党が「農政の大転換」とうたう戸別所得補償制度のモデル事業がいよいよスタートを切った。従来は自民党の有力支持組織だった農業団体はどう受け止めているのか。JA北海道中央会の飛田稔章会長に聞いた。

新しい制度だけに 農家には戸惑い

 ――政権交代で農業政策が変わりました。どう受け止めていますか。
飛田 民主党政権は新たに戸別所得補償制度を導入し、今年度からコメを対象にモデル事業を実施します が、その他の農業支援対策が大きく変わったわけではない。農協もこれまで通り、組合員のために施設整備などを推進していきます。  とはいえ、農家の間には戸別所得補償制度に戸惑いはあります。コメも畑作も基本的に1年1作で、途中でやり直しのきかないもの。そのうえ天候によって経 営は大きく左右されます。そのなかで農家は慎重に経営方針を練るわけで、戸別所得補償は新しい制度なだけに果たしてどんな影響が出るのか、農業者としては 正直なところ不安はありますね。
――戸別所得補償制度が打ち出された後、JA北海道中央会として民主党に意見は言ってきたのですか。
ivw2 飛田 もちろんです。農業生産の現場の声を届けるとは非常に大事なことですから、東京に行って働きかけたり、地元でも民主党に要請をしています。
政権交代後、いろいろな面が変わりました。例えば酪農畜産なら、以前は役所の人が現場に足を運び、調査をしたり、意見を求めてきたりしましたが、今はそ れがない。民主党のやり方を理解はしますが、従来とは陳情や要請のやり方が変わり、新政権が生産現場の声をどうやって耳を傾けようとしているのか、あるい は現政権がどういうお考えなのか、まだ十分につかみきれてはいない。
――政権与党と議論を重ねる時間も短かったのでは。
飛田 確かにそういう印象はあります。これまでも時代に応じて新しい農業支援制度が創設されたり、改 正されてきましたが、例えば品目横断的経営安定対策のときは、大変な議論を経たうえでスタートしました。今回の戸別所得補償制度の場合、具体的な中身に関 する議論の時間が十分にあったとは言いがたいと思います。
――JA北海道中央会の要請や意見に対する民主党側の反応は。
飛田 先ほどお話しした不安の根源がどこにあるかというと、まさにそこなんです。民主党代議士のみなさんに現場の考えや意見を申し上げても、明確な反応や回答がなかなか返ってこないので、こちらとしては手応えを実感できない。だから不安にもなるのです。
しかし、現実に新たな制度が始まるわけですから、不安だと言ってばかりもいられません。新しい制度をどうやって農業現場で取り込んでいくかという点も当然、重要だと考えています。

米価維持のために需給調整をすべき

――そういうモヤモヤとした気持ちがあるなか、戸別所得補償のモデル事業受け付けが4月1日から始まりました。戸別所得補償制度をどう評価していますか。
飛田 モデル事業では全国一律に10アール当たり1万5000円を交付するわけですが、最も重要なのは、それで経営が維持できる生産費をしっかり確保できるか、という点です。もし生産費を確保できないような制度であれば「違う」とはっきり主張しなければなりません。
また、米価は下落傾向にあり、2010年度も55万ぐらい余剰になるとの見方があります。この戸別所得補償制度が米価安定の面でもうまく作用すればいいのですが…。現政権は需給調整をやらない方針と聞いていますが、われわれは米価維持のために需給調整をすべきだと話をしています。  ――戸別所得補償制度への批判
のなかには「バラマキではないか」「担い手の意欲をそぐのではないか」というものもあります。

飛田 北海道は兼業が多い本州とは違い、8割近くが主業という地域です。担い手としての質や位置づけが 非常に高いと言っていいでしょう。ところが、今回の政策は全部の農家を「多様な担い手」としてとらえ、一律に支援する仕組みです。北海道はしっかりとした 担い手が一生懸命やっているということの重要性を現政権には理解していただきたい。その点が、われわれとはちょっと考え方が違うと感じています。
――戸別所得補償制度に点数をつけるとすると100点満点で何点ですか。
飛田 今年度からモデル事業が始まったばかりなので採点するのは難しい。あえて言うなら、戸別所得補償は道半ばというところではないでしょうか。モデル事業がどのような結果になるのかをよく見極めたい。今後、成果が上がるのであれば当然、評価します。
民主党は今後、畑作や酪農畜産でも戸別所得補償を導入するとしています。しかし、酪農畜産では、加工乳に対する現在の補給金制度は戸別所得補償と変わら ないという主張もあります。そうであるならば、まず補給金制度をしっかり充実させて乳価を維持すべきではないでしょうか。
いずれにせよ、畑作や酪農畜産についても、いきなり本格的に戸別所得補償に踏み切るのではなく、まずはモデルという形でスタートするべきです。その後、どうするか慎重に判断するという形の方がいいと思います。

基盤整備の予算が全然、足りない

――政権交代後、農業土木予算が大きく減少した点については。
飛田 当然のことですが、土地がしっかりしていないと、農業は成り立ちません。暗きょなどの基盤整備をおろそかにすると、北海道農業をダメにすることにつながってしまいます。
昨年は夏場の天候不順で私の地元・十勝でも、土地の水はけが悪くて生産が落ち込んだ畑がたくさんありました。土地改良事業をしなければならない農地がま だまだあるんですよ。土地改良のしっかりとした計画を組み、着実に実施していくべきで、この点についても政府与党に要請しています。
――かつて土地改良の名目で、道路を造ったりした事例もあった。
飛田 今までそういう事例はあったが、きちっと土地改良予算は農地のためだけに使えばいいんです。ムダを省くといっても、1、2割のカットなら本来の目的を達成できるかもしれないが、今回、予算がいきなり半分以下になったんです。これでは全然、足りない。
――農業土木予算の増額を要請しても、なかなか認められなさそうな雰囲気ですが…
飛田 どうなるか心配な部分はありますが、丁寧に説明を続けていきたい。特に北海道の農家は本州と比べると12倍以上の経営面積です。広い農地を農家個人で整備するのは現実的には難しい。
――北海道の土地改良予算はどれだけ減ったのですか。
飛田 北海道でいくら減ったか、という議論の仕方は好ましくないでしょう。日本全体で農業土木予算がこんなに減少してしまっていいのか、という話です。
――なぜ民主党政権は基盤整備予算を激減させたのでしょうか。ムダな事業は切るべきですが、農地を改良・整備することで収量が上がり、農家の経営効率も上がるはずです。
飛田 私にはさっぱり理由が分かりません。
――自給率アップのためにも、しっかりとした土地改良事業が必要ということですね。
飛田 ご存じのように、世界的に食料の需給バランスが非常に心配な状況です。世界の人口は68億人で すが、これが2050年には90億人を突破すると予測されています。中国やインドがどんどん豊かになっており、経済発展すれば食料もそれだけ必要になりま す。世界的に食料需要が急激に膨らんでいるわけです。
一方で温暖化による供給減の懸念があります。オーストラリア、ブラジル、アルゼンチンの農家が温暖化の影響を受けて大変ですが、温暖化が進めば世界中の農業が影響を受けるでしょう。すでに農産物の輸出を抑制している国がたくさんあります。

財布を握る政党と密にやっていく

 ――政治面の話をうかがいます。従来、農業団体は自民党寄りと言われてきましたが、1月の共産党大会に全国農業協同組合中央会(JA全中)の幹部が初めて来賓として出席しました。政権交代後、各政党との距離はどう変化したのですか。
飛田 共産党大会に全中の幹部が出席した件は私にはよくわかりませんが、基本は財布を握っている政党 と密にやっていくスタンスです。与党ときちんと接点をもち、農業現場の声を政策や制度に反映しなければいけないのですから。特に北海道のように農業が基本 で動いている地域が、もし与党をないがしろにしたら、立ちゆかなくなってしまう懸念があります。
しかし、今までは長年、自民党とのパイプでやってきたことは事実。自民党にも顔を向け、「野党として農業活性化のために頼みますよ」という姿勢です。
ivw5――農協の政治団体である全国農政連が3月下旬、参院選の自民党比例代表候補(門伝英慈氏)を推薦しない方針を決めました。自民党離れでは…
飛田 必ずしもそういう単純な話ではありません。まず候補者の地元農政連が推薦するというのが基本に あります。07年の参院選に自民新人として出馬して当選した山田俊男さん(元全国農業協同組合中央会専務)のときもいろいろありましたが、最終的には東京 の農政連の推薦を受けた経緯がありました。
しかし、今回の門伝さんは地元・宮城の農政連が推薦できませんでした。地元が推薦できない候補を全国農政連が推すことはありません。
県によって自民党色が強い農政連もあれば、民主党色が強いところもあるでしょう。それぞれの農政連のスタンスは微妙に違うと思います。今回の参院選では、各県レベルで、いろいろな判断があるのではないか。
――北海道の農政連は3月末に役員会を開き、参院選北海道選挙区の対応を決め、自民党候補の長谷川岳氏と民主党候補の徳永エリ氏の2人に「支持」を出すことにしました。経過をうかがいたい。
飛田 3月に自民党からは伊東良孝自民党道連会長名で長谷川さんの、民主党からは鳩山由紀夫民主党代表名で徳永さんの推薦要請があり、対応を慎重に協議してきました。
連盟としては政権与党である民主党に対し、われわれの農業政策にかかる主張・意見を反映するため、また、自民党を通じて政策の実現を果たしてきたこれまでの関係維持のため、2人の支援を行うこととし、「支持」をすることとしました。
――2政党の候補の支持を打ち出すことは今まであったのですか。
飛田 中川義雄さんをはじめ、これまでは選挙では与党の自民党候補を推薦してきました。今回が初めてですね。
――最後にJA北海道中央会で長年、取り組んでいる農協合併について教えて下さい。
飛田 道内には110農協があり、各農協の現状、取り組みを見つめるなかで、合併か否かを判断してい ます。いろいろな判断の指標はありますが、根本的な点は将来的に組合員をサポート、守っていける体制にあるかどうかです。そこを抜きにして、合併話を進め ても弊害が噴出してくるだけでしょう。
目標としては最終的に道内37農協体制というのがありますので、当該農協と相談をしながら推進していきたいと考えています。

=ききて/野口 晋一=