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Interview

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「市民の文化活動を新たな観光資源に」掲載号:2009年10月号

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西尾正範 函館市長

函館市は今年7月、開港150周年という大きな節目を迎えた。同市は、函館山、五稜郭公園など人気の観光名所を有するが、ここ数年、観光客が減少に転じている。どのように活性化を図っていくのか。西尾正範市長を直撃した

150周年で市民のパワーを感じた

――助役から市長に転じて約2年半が経過しました。
西尾  市長就任後を振り返ると、ずっと走り続けてきた感じですね。地方自治には「住民福祉の向上」「地域の振興・発展」という2つの目的があります。
つまり、いま住んでいる人の幸せ、将来の子供たちの幸せをいかに追求するかです。だから市長選に立候補した際、人材育成、市民自治の内容を盛り込んだ公約をつくりました。
函館が発展するためにはまず、市役所がしっかりしなければいけない。発想の転換を含めた組織改革を行ってきました。庁内に「健康づくり推進室」「労働政 策室」「子ども未来室」などを新たに設置し、子育て、労働政策、健康づくりに力を入れる意志を示しました。また、函館の主力産業である観光に特化する意味 で、商工観光部を経済部と観光コンベンション部に再編しました。
教育面では、「校長先生の知恵の予算」を編成しています。これは各小中学校の校長先生が、学校の規模に合わせて60万円から100万円を自由裁量で使える予算です。大変喜ばれていて、役立っていると思っています。
――函館港は今年7月、開港から150年という節目を迎えましたね。
西尾  7月1日に150周年の記念式典、8月8日から16日まで「緑の島」を中心にいろいろなイベントを行いました。約13万人の方々が参加し、市民にも非常に喜ばれました。
150周年は市民にとって、いい刺激になったと思います。若い人たちが率先してワーキンググループをつくり、事業に自分たちの思いを託していました。
1億2000万円で関連事業を実施する予定でしたが、最終的に1億6000万円まで膨らんだ。予想以上に寄付、協賛金が集まったんです。市民の「何か行 動を起こさなければいけない」という思いが結集したあかしです。いざとなれば、ものすごいパワーを発揮するまちなんだとつくづく実感しました。
i10 ――丸井今井函館店の存続が決まりました。どのような点が評価されたと考えていますか。
西尾  丸井今井は100年以上前から市民に親しまれている百貨店です。市や商店街、商工会議所も含めて、みんなが「とにかく存続だ」と熱意を持って動いた結果だと思います。
加えて道南は、商圏が独立しています。函館は札幌から距離も離れている。閉店した室蘭、旭川店は、どうしても札幌圏に入ってしまいます。しかも来年冬に は、新青森まで新幹線が開通します。その5年後には函館まで来るとなれば、函館店が東北を巻き込んだ商圏の拠点になり得ます。
――行政として、どのような形で丸井今井を支援していきますか。
西尾  時代の変化とともに百貨店経営は、非常に難しくなっています。先日、函館丸井今井の菊池敏郎 社長と会談しましたが、「曲がり角に差しかかっている」とおっしゃっていました。市としても集客力や購買力を高めるための一助となるべく政策を展開してい きたい。そのために会議所や商店街と連携を図ることも必要です。
ほかに函館店のテナントは大きく変わりませんが、一連の経過により、リストラなどの傷みが発生しました。丸井今井と再雇用の問題などでは、引き続き協力体制をとっていきます。

新しい函館観光の 魅力をつくる時代

――商店街、中心市街地対策については。
西尾  全国各地の昔ながらの商店街は、一連の規制緩和政策の中で、シャッター通り化が進んでいます。それに比べれば、五稜郭地区の商店街は埋まっています。函館駅前を見ても、閉まっている店は、それほど多くありません。まだまだ元気を取り戻せるチャンスがあります。
今後はコンパクトシティーという視点に立ったまちづくりを考えていきます。
同心円状の都市だと中心部は変わらないが、函館は放射状なので郊外に拡散していくんですよね。駅前の大門から五稜郭、美原の各地区へと広がっていきまし た。これを逆に戻す意味で、中心市街地活性化計画を策定し、駅前再開発に取り組んできました。もう一度、大門、五稜郭の両地区を、函館の中心にしたいと思 います。
――函館の観光産業の現状をどのように分析していますか。
西尾  ピーク時には年間約530万人が、函館を観光で訪れていました。2008年度は約456万人となり、80万人くらい落ち込んでいます。特に今年度は、新型インフルエンザや円高などの影響で、海外からの観光客が減っています。
ただ、韓国からの旅行者に関しては、日本全体では30%ほど落ちていますが、函館は10%ほどで止まっています。韓国の定期便が健闘していて、大韓航空が函館を大きく宣伝していただいている結果だと思います。
i11?  ――なぜ減少したと考えていますか。
西尾  ピークだった03年ころは、「函館ー東京」間を航空機が1日10便飛んでいました。当時はジャンボ機だったので1日5000人運べたのです。だが現在は7便に減り、小型機材になったので2000人しか輸送できません。キャパそのものが小さくなったことが1つの理由です。
市内には函館山の夜景やウオーターフロント地区、五稜郭公園など代表的な観光名所があります。しかし、ほとんどの観光客はこれらの場所をすでに訪れてし まったため、魅力が薄れているのかもしれません。例えば、函館山の夜景を見た人は、もう一度函館を訪れていただけないケースも予想されます。
ここ数年、観光客が伸び悩んでいる大きな要因ですね。今後、リピーターをどのように獲得していくかがカギになります。
――具体的な活性化策はありますか。
西尾  既存の観光スポットだけでなく、プラスアルファの価値を探す時期にさしかかっていると感じています。
そこでキーワードになるのが、日ごろの“市民活動”です。もともと函館は文化・芸術活動がとても盛んなまちで、市民会館や体育館は常時、混雑しています。150周年の記念イベントにも、市民約1000人がボランティアとして参加しました。
代表的な市民活動の例を挙げれば、「市民創作野外劇」や「函館市民オペラ」、「はこだてクリスマスファンタジー」、「函館港イルミナシオン映画祭」などです。全国的に知名度も高まりつつあり、これらの市民手作りのイベントを街中にちりばめていく。
今後、市民の熱心な文化活動も函館の魅力になり得るのかなと考えています。函館の観光を復活させるための新しい価値は、市民活動なのかもしれません。みんなで知恵を集めてさまざまなイベントを発信していきたいですね。

水産加工業は函館の“元気印”

――コンベンション誘致にも積極的に取り組んでいますね。
西尾  今年は開港150周年にあわせて、APECの次官級会合、日ロ沿岸市長会議など、大きなコンベンションを開催しました。
函館では、全道または北東北の大会が、年間に100件くらい行われています。実は主催者にとって函館は、コンベンションをやりやすい場所なんです。ホテ ルや会議場など、すべての施設がそろっています。参加者も「1度は訪れてみたいまち」との理由で集まりやすく、全国的に高い評価をいただいています。主要 都市の団体や関係機関を直接訪問し、積極的にコンベンション誘致を図っていきます。
i12?  ――もう1つの産業の柱である水産加工業は。
西尾  函館特産食品工業協同組合によると、水産加工品の年間出荷額は500億円弱です。イカのまち函館の名の通り、加工品はイカを原料としたものが多く、イカの塩辛や、さきイカが代表的な水産加工品となっています。そのうちほとんどは函館以外の地域で売られています。
水産加工業者は、市内の食料品製造会社のうち約52%を占めていて、市の産業の中核をなしています。
市内にも元気のある水産加工会社が多く存在し、景気が悪いといわれる道南経済を支えてくれています。水産加工業の振興は、原材料を供給する漁業の活性化、地域の雇用確保にも大きな効果を与えます。水産加工は函館にとって元気の源なんですよね。
今後、500億円の出荷額を600億円、700億円まで拡大するにはどうするのか。そのためには、国内だけでなく中国や韓国なども重要なマーケットにな ると思います。10月には、商工会議所や関係団体と一緒に韓国に出向き、函館を売り込んで来る予定です。函館ブランドは世界のどこに出て行っても負けませ んよ。
――長年交流のある極東ロシアとの関係は。
西尾  函館はウラジオストク市とユジノサハリンスク市と姉妹提携を結んでいます。市内にはロシア極 東大学函館分校があり、08年には日本で初めての「ロシアセンター」が開設しました。2012年にウラジオストクでAPECが開催されるため膨大な投資が 起きています。今までの友好交流、人材育成だけではなく、商取引という面でもつながりを緊密にしていきます。

開拓者と根っこの部分は変わらない

――函館は国際水産・海洋都市構想を掲げています。
西尾  国際水産・海洋都市構想は、函館の恵まれた地理、自然条件を生かして、「国際的な水産・海洋に関する学術研究拠点都市」を目指すものです。
国の地域再生計画の認定を受けていて、産学官都市連携事業ということで、1億円を3年間、2億円を3年間、国から補助金をもらってきました。09年度は知的クラスター創生事業として、3億円を5年間いただけることになった。
今後、旧函館どつく跡地に「国際水産・海洋総合研究センター」を建設します。来年あたり基本設計に入る予定で、道や北大水産学部の研究施設の入居も想定しています。さらに民間企業に対する誘致の働きかけも行っていき、官民が連携して研究できる施設にします。
――来年12月に新青森まで新幹線が開通し東北との交流も重要になりますね。
西尾  新幹線が青森まで開業すれば、間違いなく大きな人の流れが生まれます。これを契機として、東北に着目した観光政策を打ち出していきます。  その時に函館の“売り”は何だろうと考えると、温泉とか古い日本の街並みなどではないんですよね。やはり函館は、異国情緒なまちなんです。日本では体感できないヨーロッパのような景観、雰囲気、たたずまいをアピールしていきたい。
ただ、新幹線がきたからといって急にバラ色になるわけではないんです。あくまでも手段ですから。当然、開業により失われることもあれば、よくなることもある。活用する人、すなわち私も含め函館市民の手にすべてかかっているのです。
150年前、函館には1万人ほどしか住んでいなかった。その後、本州からいろいろな人が来て、多様な文化が混じり合い、市民運動により大きくなったまち なんです。時代は変わりましたが、当時と根っこみたいなものは共通しています。函館の礎を築いた先人たちの偉業に感謝し、歴史と伝統を受け継いでいきた い。
今後も、函館の発展のために欠かすことのできない観光、水産加工、IT関連など、可能性があると思う産業には、資本、人材を積極的に投下していきます。

=ききて/前田 圭祐=