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Interview

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「市場原理主義は無能なリーダーたちの免罪符」
北海道は小泉・竹中『構造改革』の犠牲者だ!
掲載号:2009年3月

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金子勝 慶応義塾大学教授

(かねこ・まさる)1952年東京都生まれ。東京大学経済学部卒業後、同大学院経済学研究科博士課程を修了。法政大学教授などを経て、2000年から慶応義塾大学経済学部教授に就任。著書は「反グローバリズム」(岩波書店)、「粉飾国家」(講談社)、「閉塞経済」(筑摩書房)など多数。TBS系「サンデーモーニング」やテレビ朝日系「朝まで生テレビ!」などのテレビ番組に出演し、持続可能な新たな経済政策を提唱している。
「官から民」「貯蓄から投資」「規制緩和」「自己責任」―小泉内閣が進めた「構造改革」を象徴する言葉である。そんな小泉改革を「日本をダメにした愚策」と批判するのが、金子勝慶応義塾大学教授だ。反構造改革の急先鋒・金子教授を直撃した。

オバマ米大統領も認めた市場の限界

--------金子教授は、一貫して小泉構造改革に象徴される市場原理主義を批判してきました。
金子持続の可能性がない政策を、その場しのぎに平気でやってしまうのが構造改革です。新しい改革でも何でもなく、ただ単にツケを先送りする愚策です。国家として経営戦略を放棄しているにすぎない。
社会の転換に合わせられない無能なリーダーたちの“免罪符”が市場原理主義だったんです。しかも論証不能な命題ですから、経済が成長すると「民営化のお かげ」、失敗すると「規制緩和や改革が足りない」と言う。この間、「貯蓄から投資へ」というイデオロギーがはやったし、努力した人が報われる「自己責任」 という言葉がもてはやされました。経済問題は難しいイメージが強く、拒否反応を示す人が多い。気分的に「規制緩和をすればうまくいく。市場にすべてを任せ て、後は神様を信じなさい」と言われた方が楽なんです。分かりやすいフレーズに、みんなだまされてしまった。
kaneko_2? --------日本の構造改革のモデルがアメリカでした。
金子日本が目指したのは、ブッシュ前アメリカ大統領と同じ新自由主義路線です。実は1980年代にレーガン大統領が失敗した政策でしたが、あたかも成功したとウソをついた。レーガン時代の金融自由化がアメリカに富みをもたらしていると。
小泉純一郎元首相の「郵政民営化こそがすべての突破口だ」が象徴するように、日本もアメリカに追随して「金融立国」を目指しました。アメリカは投資銀行 が国内資産を運用して10%を超える収益を上げた。日本も1500兆円ある金融資産を運用すれば、100兆円以上もうかると考えた。しかし、モデルとなっ たアメリカが、世界中を巻き込む大恐慌を引き起こしてしまったわけです。
よく「100年に1度の危機」と言われるが、アメリカの株価の落ち幅は戦前の世界大恐慌並みです。特に金融株の落ち込みが年明けから始まっていて、まさ に垂直落下に近い。世界最大の金融機関のシティグループですら、年越しから60%近く下落している。無残にも市場原理主義政策の失敗が明確になりました。

ホリエモンは金融自由化の“産物”

--------アメリカではオバマ政権が誕生し、民主党に“チェンジ”しましたね。
金子現在、アメリカで減税、規制緩和、民営化を叫ぶ人はほとんどいなくなりました。共和党大統領候補・マケイン氏の経済政策ブレーンですら、「ブッシュの8年間は大失敗だった」と分析しています。保守系新聞で知られるワシントンポスト紙も、「失われた10年」と論じている。
オバマ新大統領は「市場は大事だが、監督や規制がなければ暴走して制御不能になることがある」と市場原理主義の限界を認めています。新しい金融規制を取 り入れないと危機的状況から抜け出せない。今後、オバマ大統領は、ファンドなどを厳しく監督する政策を打ち出すはずです。銀行も本来の業務に集中すること になるでしょう。
--------構造改革が国内に与えた影響は。
金子構造改革は、人が生きる基盤そのものを脅かす事態を引き起こした。「小さな政府」の名の下、社会保障関係費をどんどんぶった切り、地方の財政力格差を是正する地方交付税を年々削減しています。
「雇用の流動化」でワーキングプアー(年収200万円以下)の層が、全国で1000万人を超えてしまった。生活保護も150万世帯を突破する勢いです。地方からは救急病院が消え、医療現場は崩壊しています。
その一方、超低金利政策をとったので円安が進み、大企業中心の輸出頼みのもろい経済基盤になった。そのため、戦後最長の好景気といっても内需が拡大せず地域格差が広がりました。
また、構造改革論者が主張する「神の手である市場」に任せれば、新しい成長分野が育つはずでした。しかし、生まれたのは金融自由化により村上ファンドやホリエモン(堀江貴文元ライブドア社長)、雇用ではグッドウィルという悲惨な結果です。
構造改革論者の竹中平蔵氏(現・慶応義塾大学教授)は、かつて格差恐れずと話していた。だが、痛みを伴う改革を推し進めた張本人にもかかわらず、いまで は格差が問題だと主張しています。加えて竹中氏は、改革が中途半端でまだまだ足りないとも発言しています。これ以上、金融の自由化、雇用を流動化して何の 意味があるのかと、お聞きしたいですね。
--------この危機を打破するために必要な経済政策とは。
金子1つは“守り”を固めることです。社会保障や雇用を解体して地域格差が広がり、経済の底が抜けて しまった。まずは、守りの内需を拡大する政策を打ち出す必要がある。ただ、財政赤字を出して景気対策をしましょうとか、金利を下げるなど従来の主流経済学 ではダメなんですよ。もはや「大きな政府」「小さな政府」の議論じゃない。新たな産業をどういう形で育成して、人材・資源をそこに誘導するのか。産業転換 を導く政府の役割が不可欠になります。
--------麻生内閣は政策の転換が可能ですか。
金子麻生さんは、基本的に現在の状況を理解できていない。100年に1度の危機というのに、なぜ定額 給付金なのか。年金や医療を立て直し、再生エネルギーや農業などの産業育成にお金を注ぐなら理解できます。給付金として財布に1万2000円が入ってきて も、貯蓄に回ってしまい乗数効果は1以下だと思います。100年に1度の経済危機に行う政策ではない。

拓銀は破綻させず助けるべきだった

--------新たな産業として“環境エネルギー”分野をあげています。
金子もう輸出主導では経済が立ちゆかない。工業製品を輸出して安いエネルギーや食料、原材料を買うや り方ではダメなんですね。大胆な発想の転換が必要です。石炭から石油に転換、蒸気機関はエンジンになりました。自動車などの重化学工業が生まれ、航空機産 業を握ったアメリカが世界を制覇しました。このようにエネルギーの変革が起きれば、新しいフロンティアが市場に生まれ、1つの時代が構築されます。そこで 注目されるのが環境エネルギーです。
kaneko_3  ドイツでは、国が主導となり環境税や排出権取引、再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度を実施している。これは収入を上げながら投資を誘発する政策 なんです。旧産炭地にできたキューセルズという太陽光電池メーカーが、国の政策が功を奏し日本のシャープを抜きシェア率が世界1位になった。財政破綻した 夕張市とは、あまりに対照的です。太陽光、風力、地熱などの再生エネルギーに投資をして、新たな産業として育てていくべきです。
--------道内経済は長い間低迷を続けています。構造改革の影響もあるのですか。
金子まさに北海道は構造改革の犠牲者ですよ。97年に拓銀が破綻し、どんどん悪い方向に進みだしてし まった。本当は、公的資金を強制注入して拓銀を助けるべきだったんです。不正会計をした経営者をきちんと法的に処罰する。その上で、迅速に不良債権処理を して銀行を立て直す必要があった。拓銀は公的資金を無責任に入れるための犠牲となったんです。「公的資金を注入しないと銀行がつぶれる。拓銀を見て分かっ ただろ。だから早く入れなきゃいけない」という形で利用されてしまった。
その後、他行に経営者の責任を問わないまま、ずるずると公的資金を入れたため、中小企業の貸し渋りや貸しはがしが横行しました。
また、北海道の正社員の有効求人倍率を見ると、0.2倍とか0.3倍です。病院も都市部に集中している。地方の公立病院は、診療報酬の改定、医師不足の 影響で赤字となり維持できない状況です。そうなると、お産ができない、救急医療ができないなどの問題を引き起こします。構造改革は医療、介護、雇用といっ た地域が成り立つ、人が生きていくための基盤を崩壊させてしまった。

インフラに対する考えが遅れている

--------未曾有の危機に直面したいま、北海道に求められていることは。
金子これまでの政策を大きく変えて、発想を転換することです。国からどれだけ補助金をもらえるとか、 新幹線開通を待っているようじゃダメなんです。新幹線は札幌の一極集中を加速させるだけですから。交通手段が便利になると、発信力のある方に吸収されてし まう。例えば、盛岡に新幹線が通った瞬間に市内から企業の支店がなくなりました。盛岡で事務所を維持して人を雇うより、仙台から新幹線で通う方がはるかに 安くなった。
kaneko_4?  そもそも北海道はインフラの発想が遅れています。いまだに道路とか新幹線などの公共事業です。これからのインフラ投資は、道路や橋などではなく“教育”です。いかにモノを考えて独創的なアイデアを打ち出せるかが、国際競争を勝ち抜くために必要になる。
新幹線をつくっても地元企業にお金はほとんど落ちません。中央のゼネコンが全部受注して、地元には10、20%くらいです。それより、いかに新たなエネルギー産業や食品加工業をつくり出すかに力を注ぐべきです。
--------“食”に関しては、北海道に優位性があります。
金子その通りです。地球温暖化の中で、食料自給をまじめに考えざるを得なくなると、北海道は最大の食 料供給基地になる。ただ、食品関連で雪印がつぶれたプロセスは、北海道にとって1つの反省材料です。大きくなりすぎて大企業病になり地元の根っこを失って しまった。もう一度原点に立ち返った上で、単に農業だけでなく北海道の食を産業化する。地元密着でコストを抑えた品質の高い一流の加工品を製造する。
北海道は何で食っていくのかを明確にするべきです。どういう産業で食べていくのかのビジョンもないのに、交通機関だけ整備しても、人がストローのように抜けていくだけです。
--------金子教授が考える規制緩和のあるべき姿は。
金子もちろん時代に合わなくなった古い規制は変えなければいけない。市場の変化に合わせたファインチューニング(微調整)が大切で、一番難しい政策を常に強いられます。
雇用も規制緩和をすれば、当面、中小企業は喜びます。コスト削減できるから生き残れると思うからです。しかし、全員がやると非正規社員が膨大に増え雇用 不安に陥る。所得も増えないのでモノを買わなくなり消費が低迷する。すると企業収益は下がり、ますます非正規社員を雇わざるを得なくなる。まさに、あり地 獄に入ってしまうんです。「合成の誤謬」という現象で、1つひとつの企業が合理的でも社会全体が合理的になるとは限らないわけです。だから社会には一定の ルールが必要なんです。

=ききて/前田圭祐=