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Interview

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「北海道の本当の危機」掲載号:2012年7月

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中山厚 同財務局長

「北海道には大きなポテンシャルがある。ただ漫然と手をこまねいていたら落ち込む一方だ。全国とは全く別のやり方をしなければだめだと思う」――北大教授も2年間経験し、北海道を見続けてきた中山厚北海道財務局長に聞いた。

生産年齢人口が急激に減っている

――北海道の最大の問題点は。
中山 やはり人口の減少と少子高齢化の進展でしょうね。これは全国的な問題ですが、北海道の場合はより深刻です。
1996年に約570万人だった人口が、09年には約550万人になった。
近年は年に2.5万人規模で減少している。高齢化率も25%に達している。全国は23%です。出生率も1.26%と全国で2番目に低い。ちょっと異常な数字です。ダントツは東京、その次が北海道です。
結婚するのが遅くて、第1子を産むのも遅い。子どもの数が少ない。この間、総人口の減少は3?4%だが、それ以上に生産年齢人口が6?7%減っています。
――いわゆる〝失われた20年〟でも、北海道が一番低迷した。
中山 そうです。北海道が全国と違うのは輸出が非常に少ないことです。全国は小泉内閣のとき、長さではいざなぎ景気を抜く景気拡大があった。これは輸出で伸ばしたんです。
北海道は人口が減少したから個人消費が落ちる。個人消費が落ちるから設備投資も落ちる。人口が減少することで住宅投資も3分の1になった。全国の住宅投資はピークの2分の1ぐらいですから、北海道はさらに悪い。人口減少、少子高齢化がきいてくる。
拓銀破綻後で、北海道は民間消費が3%減、設備投資が20%減少してしまった。
――漫然としていたらさらに落ちてくる。
中山 さらに落ちてきますね。
――どうすれば…
中山 外へモノを売るか、外から人や企業に来てもらうしかない。道外への移出・輸出を推進し、道外からの人的・企業交流を促進して消費・投資を活性化することです。私は、北海道のポテンシャルは非常に高いと思っています。
――具体的には。
中山 なんといっても日本の食糧基地としての優位性があります。農業は全国シェア12%、水産19%、食品加工は7%です。
いま世界の人口は70億人ですが、これが90億人になる。一方で世界の食料生産は増えていない。もう生産増は限界なんです。
気候変動が加わり、必ず世界的な食料不足が起こる。北海道が食糧基地として期待される。
観光でも景観、温泉など豊富な観光資源があるし、国際化ネットワークの拠点として苫小牧港と新千歳空港にも期待がもてる。苫小牧港は東アジア北米航路の最短ルートです。いまアメリカから津軽海峡を使って釜山港に行って、釜山から日本の港にきているんです。
それなら苫小牧から日本の港にくる方が近い。将来的には温暖化による北極海活用の可能性だってある。
将来的には新千歳空港と苫小牧港を東アジアのハブポートにする。ロシアからのエネルギー、資源中継拠点としても期待される。
すぐというのは無理ですが、そういうことも念頭において自分の地域を、日本と世界の中でどう位置づけていくかという大きなプランが必要だと思います。
北海道はまた災害リスクが総じて少ない地域です。例えば札幌の地震確率と関東の地震確率は16倍ぐらい違う。財務省の災害査定も全国に比べると北海道は非常に低い。こうしたことも企業誘致の売りになる。
人口密度の低い広い土地がありますから、太陽光、風力、地熱発電など再生エネルギー基地としても非常に有望です。

北海道流のやり方で経済自立を

――エネルギーでは原発をどうお考えですか。
中山 私は北海道は「食」と「観光」を中心として域外との人・モノの交流を促進し、北海道が自立し、中央依存を脱却すべきだと考えています。
そのためには全国とは全く別の北海道流のやり方が必要だと思う。それぞれの地域には違いがある。それがビジネスチャンスのはずです。規制だって広い土地のところと狭い土地のところは同じでなくたっていい。特区制度を使って全国、あるいは世界に売り込んでいかなければならない。
そういう意味では、再生エネルギーも最先端でいくが、安全を確認した上で原発も動かして、電気の安定供給を北海道の売りにして生きていく。本州が原発を止めるのなら北海道は原発を動かすといった、別のやり方もあると思います。
海外から観光客を呼ぼうというときに、こっちに来たら計画停電ですよ、節電ですからがまんして下さいというのでは、なかなか来てもらえません。
――原発の再稼働には抵抗が強いが。
中山 そのあたりは冷静に考えた方がいい。私も将来的には脱原発でいいと思います。ただ、足元の状況、世界情勢から考えると、ただちに原発を全て停止することは無理だと思います。いままでの安い電気料金は原発のおかげです。
私の友人のエネルギーの専門家は、日本のように国内にエネルギー資源のない国では、原発を抜きにしてずっとエネルギーを安定して確保していくことは非常に難しいと言っています。
しかも、いまイラン問題でイランの原油が入ってこなくなるリスクが高まっている。
寺島実
福島の40年たった古い原発と、泊のような最新鋭の新しい原発は違う。そういう技術の進歩を全く無視したような対応でいいのかと。もっと現実的に考えていくべきではないかと。
アメリカは、福島の事故をみてなおかつ原発開発を再開している。ただ古いのは停止なんですね。
――原発をすべてストップするならするで覚悟が必要ですね。
中山 そうです。相当なコスト高になる覚悟をしなければならない。
日本のような国が原発をやめて全部化石燃料でまかなおうとしたら、世界の市場価格も上げてしまうでしょうね。相当なコスト高になって、生活は苦しくなるけど家計は持つかもしれませんが、産業競争力が大幅に落ちる。そのあたりを踏まえて国民の決断、覚悟が必要です。

地方はストロー効果とドーナツ化現象

――北海道全体の問題点とは別に、地方都市は地方都市で多くの問題をかかえています。
中山 ローカルで何が問題かというと、ストロー効果とドーナツ化現象です。
交通の便が良くなると、ストローで水が吸い上げられるように拠点都市に人と富が集中してしまう。これがストロー効果で、結果、札幌の一極集中につながっている。地方の人口・購買力が流出して、周辺部分はますます衰えてしまうといった状況です。
もうひとつのドーナツ化現象というのは、中心街が空洞化して、人口が減る中で密度が非常に薄い形で市街地が拡大していく。その結果、財政負荷も環境負荷も非常に大きくなる。
加えて大店法が改正されて大型店、ロードサイド店が増えていることから、地元の事業者数が減少して、非正規雇用が拡大している。
この結果、域内での資金流通がだんだん減ってくる。また、富と資金が域外に流出しているんです。
北海道だけのことではないんですが、いま日本では民間、つまり民間金融機関にカネが余って、公共がカネが不足する状況です。
拓銀破綻後、道内の金融機関の預金は3割増加している。一方で資金需要が低下して融資の方は2・5割減っている。預金がどんどん積み上がっている。
その余ったカネで銀行、信用金庫は国債を買ったり、地方公共団体に貸し出しをするという状況です。公的債務の赤字ファイナンスに向かっているんです。
役所は低金利で借りられるからいいけれど、地域に再投資されていないのだから、地域が発展しない。
――地域の活性化を図るためにはどうしたらいいんでしょうか。
中山 地方でできることは地方でやることが大事です。私は、地域主権だとか地方分権という言葉や理念より、実効性が重要と思います。むしろそれ以前の問題だと思います。
昔の藩主は、自分のところの領民を食べさせ、地域を豊かにするために、よそからいろんなものを持ってきたり、殖産興業に努めた。
やはり首長さんはじめ地域のリーダーは、経営者としてその地域の振興策を取っていく。うちはこれが売りだというものをいろいろやっていけばいい。国はその邪魔をしないように地域の特性を認めてやることが必要だと思います。
空洞化した中心街に高齢者中心の集合住宅をつくって中心街の消費を創出するとか、周辺部の開発を抑制して事業者を中心街へ誘導し、市街地のコンパクト化を図ることで財政負荷、環境負荷を軽減させることも大事だと思います。
また、地域通貨や地域振興券の活用で、地域内の資金循環を起こしていくのも有効な手段だと思います。

市町村合併は最大の行革になる

――さらなる市町村合併も必要ですね。例えば病院だって自治体ごとにつくって重荷になっている。
中山 集約することは大事です。病院も小さいところでそれぞれやっていたら、いいものはできない。
市町村合併は最大の行革です。実は、私は内閣府の市町村合併担当参事官として、平成の大合併を手がけました。全国的には平成の大合併前に3200あったものが、いまや1700まで減っていますが、北海道はあまり進んでいない。
例えば、高山市は合併で昔の飛騨一国がひとつの市になった。その結果、東京都とほぼ同じ面積になって、日本一の面積になった。 新潟市も広域合併で人口が81万人を突破した。
よく北海道は面積が広いから市町村がたくさんあるというけれど、空知のように狭いところに何十もの市町村があるところもある。
よそでできることは北海道だってできるはずです。
広域合併すれば財政基盤が強化され、優先順位をつけて大きな投資ができる。
そうして地域のことは地域にやらせろと。うちの地域はうちの地域のやり方でやらせてくれという方が発展するのではないでしょうか。
――最後に、消費税増税ですが、増税は必要ないという論調も少なくない。
中山 日本の家計の金融総資産は1481兆円です。そこから住宅ローンなど個人のローンを除いた金融純資産は1115兆円。
日本は非常に大きなこの個人の金融資産で、金融機関等を経由して国債を買っているから安定している。
ただ日本は金持ちなんですが、それ以上に政府の借金が大きすぎるんです。公的債務残高は1048兆円にもなっています。しかもこれが年平均で着実に40兆円増加していく。
いまのままではあと2年もしたら、個人の金融資産で国債が消化できなくなる。まもなく、いや応なく外国に消化してもらわなければならなくなる。そうすると金利が上がって、経済が大打撃を受ける。逃げ足が早いので不安定になる。さらに財政破綻のおそれも出てくる。
よく国にはまだまだ資産があるから大丈夫だ、という論調がありますが、確かに国の貸借対照表で資産は647兆円ある。だけど例えば資産として計上されている道路を売れますか。
いわゆる埋蔵金といわれる特別会計積立金もある。一番大きいのは年金基金です。しかし、いまこれを費消して将来年金を踏み倒すんですか。そんなことはできない。国債整理基金もあるけれど、国債を踏み倒すわけにもいかない。
社会保障の持続可能性も確保しなければならない。そのためにも、成長も大事ですが、やはり増税は必要なんです。

=ききて/干場一之=