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Interview

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「いまの北海道観光には長期ビジョンも戦略もない」
石森秀三が喝破
掲載号:2010年6月号

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石森秀三 北海道大学観光学高等研究センター長

「観光立国北海道」が叫ばれて久しい。しかし、現在の北海道観光はどうだろう。相変わらずの「安売り観光」のままではないのか。石森秀三北海道大学観光学高等研究センター長に北海道観光に欠けているものは何なのか、どうすべきなのかをズバリ聞いた。

北海道観光は「安売り観光の大地」

――北大に来られてもう何年になりますか。
――石森 2006年4月からですから、ちょうど4年が過ぎたところです。そもそもの専攻は文化人類学ですが、25年ほど前から観光分野の研究に足を踏み入れました。当時、私は梅棹忠夫先生が初代館長を務めた国立民族学博物館にいて、観光をやると言ったら同僚からは「なぜそんな下らない研究をするのか。もっとほかに重要なテーマあるだろう。よりによって観光なんて。そんなことをやるのは2流、3流の学者だ」と。それを聞いた別の同僚は「4流、5流だろう」と。まじめにそう言われました。
――観光の研究はずいぶんと軽んじられていた。
――石森 数字的にもはっきりしています。国立大学は04年3月末をもって日本から消えましたが、当時、全国には99の国立大学があった。でも、そのどこにも観光学部はありません。観光学科もない。工学部で交通工学の視点から観光をテーマにしている人や、情報科学の分野から観光をテーマにしている人などはいました。でもそれは個々に研究しているだけ。大学として、観光学はまったく制度化されていませんでした。
――そういう中で石森さんが06年、北大で観光学高等研究センターを立ち上げられた。

i2――石森 現在は観光学部、観光学科を持つ、いわゆる“観光系大学”は、私大を中心に全国に43あるといわれています。道内にも1999年にいち早く観光学部を立ち上げた札幌国際大学、観光産業学科をもつ北海商科大学などがある。
――以前から北海道は観光を主要な産業にしなければならないと言われていました。4年前、石森さんがこちらに来られたとき、北海道観光の現状をどう認識されましたか。
――石森 北大に来たとき、私はすでに60歳で“熟年よ、大志を抱け”ということで頑張り始めました。当初は、京都や奈良など定番的なところは別にして、やはり日本で観光というと“北の北海道、南の沖縄”、これが双璧という感じはしていたので、北海道観光の現状をそれほど深刻に受け止めていませんでした。
北海道はひと言でいうと「魅力の宝島」です。豊かな自然、四季の明確さ、おいしい空気、豊富な食材など、アジア全体を見渡しても北海道くらい資源に恵まれた地域はそうありません。北海道の可能性、ポテンシャルは非常に高いものがある。にもかかわらず、冷静に北海道観光を見たとき、いったい何なんだと。いまもそうですが、北海道観光には長期ビジョンも戦略もない。私はそんな北海道観光を「安売り観光の大地」と呼んでいます。それで関係者からは嫌われているんですけど(苦笑)
――何ごとも本当のことを言うと嫌われますからね。
――石森 では、安売り観光の大地をどう変えていくか。私がいま提唱しているのは「観光立国北海道」ではなく「観光“創造”立国北海道」にすべきだということ。どういうことかというと、私は“御三家”と呼んでいるんですが、旧来の観光産業というのは3つの業種がけん引してきた。1つは旅行業、そして宿泊業、3つめが運輸業です。これが団体旅行・名所見物・周遊を中心としたマスツーリズム、パッケージ型の旅行を動かしてきた。私はこれを「他律的観光」と呼んでいます。60年代以降90年代の初めくらいまでものすごく伸びました。かつての旅人は、旅行会社の窓口に行って「北海道に行きたいがどんなプランがあるのか」と聞き、「パッケージ商品6コースあります」とか言われて、そこから自分に合うものを選んでいた。日本人の旅行は相当程度に旅行業者に支配されてきたといって過言ではありません。
ところがいまや窓口に飛び込むよりもインターネットを立ち上げて自分で探す時代です。飛行機も、ホテルも、レストランだってネットで予約できる。私はそうした変化を、旅人自らが旅をオーガナイズする「自律的観光」と呼んでいます。
――石森さんは変化を早くから察知していましたね。

i3 ――石森 90年代初頭に提唱し、21世紀は自律的観光の時代になると予言しました。その背景にはバブル経済の崩壊、インターネット革命があります。実際、90年代の半ばから個人が旅を企画・運営する傾向が強まり、現在は個人旅行、夫婦旅行、家族旅行など、より小単位の旅行がシェアとして7割を超えています。
――確かに名所見物にかわって、歴史を学ぶとか、自然を楽しむとか、自己実現型の観光が増えている。
――石森 さらに周遊よりも1カ所滞在を希望する人が増えてきているんですが、残念ながら、まだ地域の整備が進んでいない。3連泊、4連泊、1週間滞在しても満足いくようなものを提供できる地域がまだ少ない。いずれにしても、スローツーリズムという形で、以前のファストツーリズムから大きな変化が起こっているのは間違いありません。
――そうした変化に対応していくためには、旧来型の御三家だけの観光ではダメなんだと。
――石森 北海道の観光振興の中核機能を担う「北海道観光振興機構」の会長は鉄道業。副会長には旅行業、宿泊業、航空業の方々と、まさに御三家が勢ぞろいです。別にそれが悪いといっているのではありません。今後とも旧来型の観光がなくなるわけではないですから、それはそれで頑張っていただきたい。
一方、北大の観光学高等研究センターが目指しているのは、地域に力点を置き、新しい観光を地域が生み出していけるようなノウハウとか人材を育てること。観光創造立国北海道を実現するためには、民・産・官・学の連携が必要なことは言うまでもありません。そこで学が担うべき役割は、知恵袋であり、全体のコーディネート役でしょう。
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「観光創造士」の認定制度を創設

――この4年間の成果は。
――石森 1年目は私1人でした。スタッフが増強され、観光創造専攻の大学院がスタートしたのが07年4月から。だから正確には3年ということですが、院生を含め優秀な人材が全国規模で集まってくれるようになって、かなり充実してきたという手応えを感じています。
また、8月をめどに「観光創造アカデミー」というNPO法人を立ち上げます。そして、ここを土台に道観光振興機構と連携し「観光創造士」の認定制度を始める予定です。
――なぜいま資格をつくるのですか。
――石森 地域には観光資源がたくさんあります。外国人観光客からすると、北海道などはまさに観光資源の宝島なのに、それを活かしきれていない。今後、地域でやらなければならないのは、地域資源を多様に結び合わせる観光をつくれるかどうかです。自律的観光の時代に従来の発想は通用しません。農業や環境など、地域資源同士を結びつけ、新たな魅力をつくり出さないといけない。現状ではそういうことのできる人材が絶対的に不足している。そうした人材を育て、地域で活躍できるよう後押しするのが観光創造士制度です。
――それぞれの地域に観光協会はありますが、確かに地域資源を結びつけて新たな観光を提案するという形にはなっていませんね。
――石森 地域に専門家がいないのです。観光地を担った宿泊業者は目先の経営で精いっぱい。一説には、道内の宿泊業者の8割は銀行管理下にあるとも言われています。本来は地域の旦那衆のはずなんですが、安売りで体力をなくしている。地域のことを考える余裕があまりない。

来秋にも創造士認定第1号が誕生か

――観光創造士の構想はいつから持っていたのか。
――石森 私は2年前から観光庁に公的資格をつくるべきだと言ってきました。観光創造士として国家資格にしろと。ところがエリート官僚は自分の業績にならないものはやりません。できないという理由は5つ、6つすぐつけられる。国家資格の創設には10年くらいかかりますから、同じポジションに1、2年しかいないエリート官僚は、ほとんど興味を示さない。文句ばかり言っていても仕方ないので、大学でできることをしようということです。
――6月にNPOを立ち上げ、その後の展開は。
――石森 観光創造士としてどういう能力が必要なのかをいま詰めているところです。昨年7月、大雪山系トムラウシ山で9人が低体温症で亡くなる事故が起きましたが、アウトドアのリスクマネジメントの基本的な考え方は知っておく必要があるとか、またへルスツーリズムとかエコツーリズム、グリーンツーリズムなど多様な観光が生まれてきている現在、新たな事業を創造する能力や考え方を身につけるためのカリキュラムづくりをしています。座学でどの程度のことを教えるべきか、またどの程度の実務的経験を前提にするのか、まだまだ検討すべきことがたくさんあります。
――アカデミー入学の要件のようなものは。
――石森 一応、大卒くらいのレベルを想定していますが、高卒でも1つの地域で観光にかかわる仕事をこなしてきた方も当然おられるでしょう。高卒より大卒のほうが能力は上などというのは錯覚以外の何ものでもないわけで、一定の基準をクリアしていれば研修などを受けてもらって学歴に関係なくトライしていただく。その後、ぺーパー試験に合格すれば認定できます。
一方、大学生などは知識はあっても実務経験がない。ぺーパーは通ったけど、実務をどの程度積ませるべきか。実務経験ゼロで認定するわけにもいかないので、インターンシップなどを盛り込む予定です。
――第1号の認定者は、いつ誕生しそうですか。
――石森 8月にアカデミーを立ち上げ、1年以上かけて即戦力になる人材を養成する。来年の夏くらいが認定試験の実施時期で、来年秋くらいに第1号の認定ができるといいかなと考えています。すでに各方面から多くの問い合わせがあります。「待っていた」とか「どうすれば私も資格を取れるのか」とか、関心を持っていただけるのはとてもありがたいことです。
――資格を取得した人は、日本全国どこへ行ってもその地域の魅力をコーディネートできる能力を持つということでいいのか。
――石森 もちろん、そういう想定ですが、とりあえずは北海道版として限定的にやろうと思っています。そして、資格を生かせるように国の交付金を使った「地域観光マネジメント法人」の設立を各自治体に働きかけ、農業や商業などと連携して新たな観光資源を生み出せる体制をつくりたい。
また、観光関連の学部、学科を持つ全国の大学に呼びかけてコンソーシアムを結成し、来年からノウハウを共有して各地で同様の認定制度を始められればと思っています。

=ききて/鈴木正紀=