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月の穴場

斎藤 豊
昭和3年11月江別生まれ 自転車にテントを積み込み、北海道の全沿岸2,400キロを自給自足で9年間釣り歩く。 NHKをはじめ各民放テレビ・ラジオに出演。

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2010年8月号 

「ロロローン、ロロローン…」。鬱蒼(うっそう)とした渓谷の夜がほんのり明けかけた頃、聞きなれない声に起こされた。夜明けと共に入渓すべく、前夜静かな山間の車中に安眠を求めたはずだったが―と首を傾げながらその主を探す。昨夜は気付かなかったが、声を辿ると近くの七面鳥の飼育小屋からだった。時ならぬこの騒音は、車外に飛び出した私をすぐ傍らの滝に向かわせた。
 高さ4メートル 、川幅いっぱいに広がるその滝は、深く抉(えぐ)れていつも私を魅惑する。泊村盃川に落下する「末広の滝」である。緩やかな踏み跡を辿って滝まで下りる。そしておもむろに竿を伸ばしてハリに虫を刺し、朝靄(もや)の立ちこもるなか一発気合を込めて大きく竿を振る。打ち込みながらも、流れに乗った目じるしを静かに目で追っていた。1投、そしてまた1投…。3投目を打ち終えたその時だった。一瞬止まったかに見えた赤い目じるしが、いきなり渦巻く水中へと消え去った。同時に強い力で穂先が一気に伸され、細いラインが真っすぐ張って一直線にツボの巻き返しに向かって走り出した。が、これ以上逃げ切れないと見たか、獲物はラインが手いっぱい伸び切ったところで銀色の肌を見せ体を大きく反転させた。目に映えたのは鮮やかな青いパーマーク。
 しかし逃れる術(すべ)を失った渓流の妖精も、なおも抵抗を見せながらも最後には私の手に落ちた。昨年8月7日、私とヤマベの朝明けのドラマは終わった。サイズは27センチ。盃川では珍しい良型だった。